今回は、8月12日~20日の日本上映開始作と、初期アンジェイ・ワイダ《抵抗三部作》から10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第235弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■8月12日公開作
『ストーリー・オブ・マイワイフ』
豪腕船長のファム・ファタール体験録。
レア・セドゥの放つ魔性刮目。FrenchDispatchの正面性とは対照的に、背筋の躍動が凄かった。
初対面でプロポーズする1920年マルタのカフェから洋上、パリ住居、港湾都市ハンブルクの街頭描写も逐一見惚れる美麗作。
"A feleségem története" "The Story of My Wife" https://twitter.com/pherim/status/1557571327703527424
『フレンチ・ディスパッチ』https://twitter.com/pherim/status/1493056236232736770
PR画像を筆頭に、東欧ベースで移動する男女へ焦点化、パリを含めた再現描写など共通点が不思議と多い『COLD WAR あの歌、2つの心』
『COLD WAR あの歌、2つの心』https://twitter.com/pherim/status/1452129696070574091
■8月13日公開作
『時代革命』
2019年香港騒擾の諸相を、神懸かり的に粗漏なく網羅した傑作です。
この点で『理大囲城』も超える本作、FILMeX上映版とは字幕やボカシ修正に変更ありとの由。
キウィ・チョウ監督への取材では、望外の核心的なお話が伺えました。(続
"Revolution of Our Times" https://twitter.com/pherim/status/1457270313599660032
『時代革命』キウィ・チョウ (周冠威)監督へインタビューしました。
「私はキリスト者です。恐れるべきは神であり、中国共産党ではないのです」
香港動乱の2019年を撮る全8章の精髄と“十年”“幻愛”。
留まること、闘い続けること。
【映画】2022年8月15日 キリスト新聞社HP
拙稿「『時代革命』キウィ・チョウ監督インタビュー」
http://www.kirishin.com/2022/08/15/55717/
圧巻。
周冠威/Kiwi Chow監督の構成力、映像の圧力、情感迫る描写力、終幕後の止まない拍手。
2014雨傘運動描く『乱世備忘』から2019反送中の『理大囲城』まで、香港デモを撮る各々に素晴らしいドキュメンタリー秀作群のまさに極北。
『時代革命』で凄まじいのは構成のバランス感覚。
2019デモの特徴“Be Water”(流水革命)を空撮で捉える一幕とか脳が痺れた。終盤の中文大から理工大への移行で『理大囲城』が相対化されつつ接続する臨場感。
カンヌ映画祭サプライズ上映後としては、今日の東京フィルメックス上映が世界初となった由。
『理大囲城』https://twitter.com/pherim/status/1412285678801494029
『乱世備忘 僕らの雨傘運動』https://twitter.com/pherim/status/1015158317386063872
『Blue Island 憂鬱之島』https://twitter.com/pherim/status/1535481191482085376
拙稿「決断する若者たち チャン・ジーウン監督インタビュー」
http://www.kirishin.com/2022/07/14/55198/
■8月19日公開作
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』
“稽古を3日休むと観客に気づかれる”とされる最高峰で切磋琢磨するダンサー達が、コロナによる3ヶ月のブランクへと挑む。
稽古場でエトワールが踊りだすと、皆が動きを止め一人へ見入る。高位ダンサーのみが使用するドーム裏の稽古場ほか見処大量。
"Une saison (très) particulière" https://twitter.com/pherim/status/1557702754348724224
『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』https://twitter.com/pherim/status/887327530079862787
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』にダンサーの誇りの源泉をみる。
パリ・オペラ座での引退年齢は42歳。わずか数年の身体的ピークを、前代未聞の劇場閉鎖により逃すつらさを語る表情が、悲痛ながらも穏やかさを同時に感覚させるのは、この場に在るというプライドの為せる業なのだろう。
『セイント・フランシス』
34歳独身、ウェイトレス。
周りから置き去られる焦りと倦怠の日々を、ひと夏の子守バイトと不意の妊娠が突き破る。
フランシスの子役演技が神懸かり的、同性親との関係性描写も瑞々しい。レディ・バードに触発された主演ケリー・オサリヴァンが初脚本を担当。この流れガチ良い。
"Saint Frances" https://twitter.com/pherim/status/1558302604408819713
『レディ・バード』https://twitter.com/pherim/status/1450438671757283332
『セイント・フランシス』を観ていてもう1つ、不思議と幾度も想起されたのが『マイ・サンシャイン』。
フランシスが教会の告解室へ潜るタイトル回収場面など瞬間瞬間で突き抜ける表現性が共通するのだなと。
『マイ・サンシャイン』https://twitter.com/pherim/status/1069963555867426818
拙稿「すこやかなる、まことの王たち」http://www.kirishin.com/2018/12/05/21307/
■8月20日公開作
『みんなのヴァカンス』“À l'abordage”
南仏の田舎へ恋人追う青年と親友、道連れにされた裕福青年の旅。
行楽地で出逢う人々の朗らかムードがひたすら和める。
脚本のない映画かなと気づいてからグッと面白くなった。日本でも濱口竜介や三宅唱らが定着させた感あるワークショップ映画の優しい極北。
"" https://twitter.com/pherim/status/1559746068040265729
『復讐は神にまかせて』
インドネシア武術シラットが全編に炸裂するアクション怪奇ロマンス。
期待値の斜め上すぎて笑う。香港カンフー映画の気配満載なうえ、人ならぬ怪異も加わり突然くノ一ナンバ走り始めるわ、デコトラ絵は動きだすわの謎エネルギー充満。エドウィン作常連Ladya Cheryl大活躍。
"Seperti Dendam Rindu Harus Dibayar Tuntas" https://twitter.com/pherim/status/1455686581109420032
エドウィン’08年作『空を飛びたい盲目のブタ』https://twitter.com/pherim/status/1259582027327696896
『失われた時の中で』
かつてベトナムへ従軍した写真家であった夫の死は、枯葉剤の影響では。映画監督となった妻・坂田雅子が、ベトナムへ渡り、写し撮る。
鈍い光、重い時間。にも関わらず、力強い。
フランスへ移民した女性が、国籍を梃子にモンサントを訴える。そういう闘いがあるのだと知る。
"" https://twitter.com/pherim/status/1559010263588020226
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『世代』“Pokolenie”1954
ナチス占領下ポーランド青年の躍動する日々。
東部戦線への兵站貨物から石炭を盗む場面に始まるアンジェイ・ワイダ28歳の長編第1作は記憶よりずっと軽快で、恋愛成就→速攻別離の青春ラスト切なす。けれどこの初々しさこそ、来たるワルシャワ蜂起地獄の序曲なんだよね。
"Pokolenie" https://twitter.com/pherim/status/1555170689753444352
『地下水道』“Kanał”1956
出口なしの暗闇行路。
見捨てられたワルシャワ蜂起の末路。
ぬめる煉瓦の網状迷路、地上で待つナチスの銃口。弱る体力、汚水に毒ガス、鈍る思考と視力。
アンジェイ・ワイダ初期作。抜け出た中隊長が地下へ戻る終幕に戦慄。大昔に観た抵抗三部作、他も再鑑賞必須だなん。
"Kanał" https://twitter.com/pherim/status/1554299625519316992
拙稿「『時代革命』キウィ・チョウ監督インタビュー」
http://www.kirishin.com/2022/08/15/55717/
『灰とダイヤモンド』“Popiół i diament”1958
独軍降伏の1945年5月8日ワルシャワを舞台に、党書記暗殺の密命を受けた青年マチェクがたどる煩悶と情熱の軌跡。
廃墟と白馬、夜闇の墓標と陽光に煌めく白布などモノクローム美に心酔する。終盤の逆吊り磔刑像&絶叫挿入の共産式おばけ屋敷演出焦る。
"Popiół i diament" "Ashes and Diamonds" https://twitter.com/pherim/status/1554299625519316992
松明のごとく 汝の身より火花の飛び散るとき
汝知らずや わが身を焦がしつつ自由の身となれるを
持てるものは失わるべき定めにあるを
残るはただ灰とダイヤモンドのごとく
深遠に落ちゆく混迷のみなるを
永遠の勝利の暁に 灰の底深く
星のごとく輝く ダイヤモンドの残らんことを
―Cyprian Norwid
アンジェイ・ワイダ『死の教室』
https://twitter.com/pherim/status/1197717612215431169
『ワイダの建築へかける情熱』
https://twitter.com/pherim/status/1195919232464125952
ワイダ組出身監督作『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
https://twitter.com/pherim/status/1293741535620558849
余談。コロナの夏3rd。先月末岩波ホール閉館。もはやリーダーシップを採ろうという人物が誰もいなくなった状況自体に清々しさを感覚します。すでにみなさん口先だけでなく、まごうことなき自己責任の弱肉強食時代へ突入する気満々なのですねと。これから先の坂道を思うだに、失われたン十年てな形容詞を引き伸ばされた「平成」は、ほんとに真っ平らだったんだなって思います。日本映画は今より面白くなるんじゃないかなという予感。これ以上底もつけない感ちょっとあるので。
おしまい。
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