今回は、9月3日の日本上映開始作と《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3》上映作を中心に、10作品を扱います。
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3(9/2~): https://belmondoisback.com/
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第237弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■9月3日公開作
『オルガの翼』
15歳の体操選手オルガは2013年、政情不安のウクライナからスイスへ移民し、言葉の通じない代表チームで欧州選手権に挑む。
進行するキーウのユーロマイダン革命で傷負う母、ロシアチームへ移ったかつてのコーチを貶す親友。大会当日、世界の混沌とたった一人で対峙する少女の姿が熱い。
"Olga" https://twitter.com/pherim/status/1564583202366554113
『オーバー・ザ・リミット』https://twitter.com/pherim/status/1246663507946246144
拙稿「ルーシの呼び声(4)」 URL近日追記
『重力の光:祈りの記録編』
元極道翁が主の復活を演じる、北九州・東⼋幡キリスト教会へ集う素人9人の舞台稽古模様と人生模様。
奥田知志牧師の来し方にも迫る構成は見応えあり、やや映像がハマりすぎ総花的すぎる面も新進監督ゆえの活力をみるようで好ましい。北九州と石原海の汽水域に揺らめく光。
"" https://twitter.com/pherim/status/1565636446203314176
たぶん多くいるのだろう、奥田愛基に関心はあるけどその父は知らないという人たちにも必見の一作。昨年YouTube失言大炎上後のメンタリストDaiGo本人の希望による受入れを表明した(実際どうなったか知らず)ことでも世間の耳目を集めたNPO抱樸/牧師・奥田知志の語りや佇まいの魅力が、存分に映り込んでます。
てか本作プロデューサーのAKIRAって、名前を変えてるけれど息子さんですね。(呟きはしませんけど)
■《ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3》2022/9/2~
http://belmondoisback.com/
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選1スレhttps://twitter.com/pherim/status/1318748254696165377
ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2スレhttps://twitter.com/pherim/status/1389090510019522561
『勝手にしやがれ』&『気狂いピエロ』https://twitter.com/pherim/status/1513786913844473859
『勝負をつけろ』“Un nommé La Rocca”1961
28歳のジャン=ポール・ベルモンド若旦那が、親友を助ける早撃ち名人に扮するフレンチ・フィルムノワール。
のち持ち味と化す軽快さは影潜め、ルパンより次元寄りの渋さで魅せる。親友妹との恋路が南仏の陽光に映え麗しう。ジャン・ベッケル監督作(ジャック息子)。
"Un nommé La Rocca" https://twitter.com/pherim/status/1562430141464444928
ジャック・ベッケル『幸福の設計』他https://twitter.com/pherim/status/895652297434210304
『冬の猿』“Un singe en hiver”1961
ジャン・ギャバン&ジャン=ポール・ベルモンドの2大至宝が咲かせる夜空の華。
冒頭20分の、ナチス占領下ノルマンディへの空爆を生き残る親父の描写は圧巻。戦時の中国体験を語る初老男と聴く青年の構図醸す哀愁に、小津“秋刀魚の味”の呑み屋場面が強烈に想起され。
"Un singe en hiver" https://twitter.com/pherim/status/1564976115847794689
『冬の猿』のフランス公開は1962年5月、
『秋刀魚の味』の日本公開は1962年11月。
大戦終結から17年。戦地を知らない世代が社会を牽引しはじめ、兵役時代の思い出語り自体が懐古趣味のニュアンスを帯びてしまった世相の儚さを描くのに、老若ふたりの盃を交わす姿は画としてこのうえなくキマったのでしょうね。
『華麗なる大泥棒』“Le Casse”1971
ジャン=ポール・ベルモンドニキ率いる4人の窃盗団、執拗に追う刑事と妖艶なるファムファタル、小型車同士のカーチェイス。
実写版ルパンの世評も納得の、100万$の至宝めぐる争奪戦をエンニオ・モリコーネ音楽が囃し立てる。“冬の猿”のアンリ・ヴェルヌイユ監督作。
"Le Casse" https://twitter.com/pherim/status/1567367651072307200
『華麗なる大泥棒』、主人公と刑事が食堂で会する図はパチーノ&デ・ニーロ“ヒート”の緊迫感そのもの、穀物庫に埋もれる刑事が掌を残す図は“ターミネーター”終幕図の原風景で、古い流行映画を観る楽しみここに。
仏語と英語で2度撮影された裏話に“アル・リサーラ”も想起され。
『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』1976 https://twitter.com/pherim/status/1239127421598613504
『ラ・スクムーン』“La Scoumoune”1972
ジャン・ベッケル監督『勝負をつけろ』を、より原作へ忠実に名匠ジョゼ・ジョヴァンニがリメイク。
ジャン=ポール・ベルモンド39歳が二丁拳銃使いへ進化、バディ物要素も加わり諸々美学的に更新された感。
23歳のドパルデュー(4枚目中央↘)イケメンかわゆす。
"La Scoumoune" https://twitter.com/pherim/status/1571075828171284480
『ラ・スクムーン』(’72)監督のジョゼ・ジョヴァンニは、リメイク元『勝負(かた)をつけろ』(’61)でベッケルと共同脚本を編んでいて、色々溜め込んだ不満が昇華した格好。
積年の熟成を窺わせ、唸らされるカットもそこかしこに登場する。『パピヨン』(’73)も影響受けてそうな。
『パピヨン』https://twitter.com/pherim/status/1157823456903221253
あと『ラ・スクムーン』でナチス置き土産の地雷を撤去する危険作業に虜囚が使われる場面に、デンマーク映画『ヒトラーの忘れもの』も想起され。『沖縄の民』などでも思ったけど、大戦後の世情をトータルで感覚するのに映画ほど向く素材はないなと。
『ヒトラーの忘れもの』https://twitter.com/pherim/status/809196592456572928
『薔薇のスタビスキー』“Stavisky...”1974
巨匠アラン・レネがジャン=ポール・ベルモンドを迎え、ウクライナ系ユダヤ人の詐欺巡り政権さえ倒れたスタヴィスキー事件を映画化。
イヴ・サンローランの衣装纏うアニー・デュプレーや、並行するトロツキーの亡命挿話など見処多し。
ドパルデュー25歳も出演!>w<b
"Stavisky..."
『ベルモンドの怪盗二十面相』“L'Incorrigible”1975
20の顔と名を使い分け20の愛人を相手する日常は、壮絶にせわしなく滑稽でやがて切ない。
“リオの男”他でベルモンドと度々組んだフィリップ・ド・ブロカ監督作。ヒロイン役で同監督カルト作“まぼろしの市街戦”にも出演のGeneviève Bujold麗しう。
"L'Incorrigible"
『ベルモンドの怪盗二十面相』、モンサンミッシェルを後ろ背にする終幕の“抜け”が最高に良い。
今回のベルモンドが狙うお宝はエル・グレコの三連祭壇画なんだけど、やはり物理実体として見映えのするお宝がある娯楽作は視覚的に強いなとも。抽象性の強い監督が金融詐欺描く『薔薇のスタビスキー』はそこが弱く、観念だけで押してる感パなかった。
『パリ警視J』“Le marginal”1983
ジャン=ポール・ベルモンド扮するならず者(marginal)刑事が巨悪へ挑む。
自動小銃ベレッタ93Rの映画初登場で著名な本作、改造ムスタングがボロボロになりゆくカーチェイスは、問答無用の結末込みで圧巻。
コンプラ無視で己が正義貫くジャック・バウアーの原風景。
"Le margina"
■VOD配信/TV放映作(国内非劇場公開作)
『アイ・ケイム・バイ』
名声極める裁判官の豪邸地下には、知られざる彼の趣味を満たす幽閉部屋があり。
ジョージ・マッケイ始め、豪邸の秘密へ迫る面々が次々判事の毒牙にかかる。結果、同じ構図で主人公だけ入れ替わりゆく仕立てが面白い。
子想う母、父になる重圧。抑圧と解放の裏テーマが利く。
"I Came By" https://twitter.com/pherim/status/1566693599081033729
『アイ・ケイム・バイ』はNetflix配信作。(UK配信2022/8/19世界配信8/31~)
サスペンス&ノワール調で主観が次々入れ代わってゆく感じに、同じNetflix配信/製作のドラマ『クリックベイト』が強烈に想起される。
社会的立場から受ける抑圧の諸相を下敷きにするあたり、ドラマでやっても良いくらい膨らましようはあるなとも。
『クリックベイト』https://twitter.com/pherim/status/1434398625589645318
余談。
ジョージ・マッケイ、個人的には『はじまりへの旅』(2016)と『マローボーン家の掟』(2017)を観てこれは大俳優になるなと感じましたが、超大作『1917 命をかけた伝令』(2019)の主演は展開の早さに驚きました。
『マローボーン家の掟』は日本の配給会社がすぐには喰いつかず、日本公開は2年遅れに。日本の配給は総体として時折、ものすごく保守的な傾向を露わにしますね。
『はじまりへの旅』https://twitter.com/pherim/status/848099358281093120
『マローボーン家の掟』https://twitter.com/pherim/status/948785058432692224
『1917 命をかけた伝令』https://twitter.com/pherim/status/1228537328332750850
『ミュンヘン:戦火燃ゆる前に』https://twitter.com/pherim/status/1554802372236681218
ジョージ・マッケイ主演ネトフリ新作『ミュンヘン:戦火燃ゆる前に』をめぐり書きました。
拙稿「カルト、抵抗、不可能性。 再監獄化する世界(6)」
http://www.kirishin.com/2022/08/29/55942/
おしまい。
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