今回は、9月9日~9月24日の日本上映開始作から、10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第238弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■9月9日公開作
『夏へのトンネル、さよならの出口』
青春タイムリープの夏。
ボーイミーツガール王道展開から心の成長まできっちり描く良構成。“夏への扉”想わすタイトルとひまわりや無人駅の使い方、新海誠“ほしのこえ”ばりの隔絶表現など諸々巧い。
鈴鹿央士と飯豊まりえ の落ち着いた声の取り合わせは好きな感じ。
"" https://twitter.com/pherim/status/1566359946920628225
『人質 韓国トップスター誘拐事件』
名優ファン・ジョンミンが身代金誘拐された彼自身を演じるクライムサスペンス。
工作/哭声/ただ悪より救いたまえ他超シリアスな役柄の近年続く彼だからこそ笑えるネタ連発が小気味よい。
イカゲームのイ・ユミ、梨泰院クラスのリュ・ギョンスなど脇役好配置。
"인질" https://twitter.com/pherim/status/1568574801870229506
『工作 黒金星と呼ばれた男』https://twitter.com/pherim/status/1150243246230007808
『哭声/コクソン』https://twitter.com/pherim/status/922607993195130880
『靴ひものロンド』
80年代初頭のナポリで、若い夫婦と子2人の家庭生活が夫の浮気で崩壊する。
耐え忍ぶ妻や復縁へ向かう両親を見つめる子の心を、21世紀現代の場面を交えて表現する演出の特異性に、ローマ法王になる日まで/ワン・モア・ライフ!のルケッティとはこういう監督だったかと深く感心。
"Lacci" https://twitter.com/pherim/status/1568888576255094784
2019『ワン・モア・ライフ!』https://twitter.com/pherim/status/1371007664243712005
2015『ローマ法王になる日まで』https://twitter.com/pherim/status/870098713246482432
『靴ひものロンド』のダニエレ・ルケッティ監督作『ローマ法王になる日まで』ツイを紐づけ。
同監督には同作公開時にインタビューしました。
[2017年拙稿] →http://www.kirishin.com/2017/06/10/41160/
’19年作『ワン・モア・ライフ!』を間に挟むと、深まる表現性の方角が明確で感銘さえ。
『靴ひものロンド』の原作はドメニコ・スタルノーネ『靴ひも』。
ちなルケッティ監督の2017年来日時に、《結び目を解く聖母マリア》の逸話を伺った際の感慨深げな表情を思い起こすに、『靴ひものロンド』演出へダイレクトに影響した可能性は高いなとも思いました。
《結び目を解く聖母マリア》挿話解説ツイ:https://twitter.com/pherim/status/870939056347140096
■9月16日公開作
『手』
おじさん観察が趣味のさわ子と、地味さを装うさわ子の掌を通り過ぎる男達。
鋭きオヤジいじりの底へ潜む心の脆さを、しっとり艶やかに描く流れがすごくいい。
山崎ナオコーラ原作。くれなずめ&ちょっと思い出しただけ、からの日活ロマンポルノ作品って松居大悟の大展開、ちょっと痺れる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1569655523016056835
『ちょっと思い出しただけ』https://twitter.com/pherim/status/1466739196845260810
『くれなずめ』https://twitter.com/pherim/status/1385789406183759873
『クリーン ある殺し屋の献身』
冴えないゴミ収集員のおっさんが、ある少女を助けて組織に狙われる。
エイドリアン・ブロディが、訳ありの過去とトラウマゆえに脆さと強靭さの両刃もつ男を好演。
アクションは地味ながら、私ぬいだらスゴいんです系クライムノワールを堪能できるしっとり深夜作。
"Clean" https://twitter.com/pherim/status/1567133138010390530
直近のノワール系秀作:
『Mr.ノーバディ』https://twitter.com/pherim/status/1530745217221292032
『L.A.コールドケース』https://twitter.com/pherim/status/1552985657932652544
『彼女のかけら』https://twitter.com/pherim/status/1527285646326636544
『模範家族』https://twitter.com/pherim/status/1560840489297133568
『よだかの片想い』
顔にあざもつアイコは、取材を受けたルポの映画化を望む若手監督と恋に落ちた途端に軋みを感じだす。
幼い頃あざをからかわれて以来俯きがちに生きる女性の秘めた情熱を、松井玲奈が熱演する。監督業へ心血注ぐ青年役/中島歩はじめ、藤井美菜/手島実優/池田良らの好演が心地よい。
"" https://twitter.com/pherim/status/1570573911963897859
松井玲奈めぐり追記予定、コロナ動画など。
■9月23日公開作
『渇きと偽り』
まぶしすぎる陽光が強烈に闇を際立たせる、
エリック・バナ主演のクライムサスペンス。
旧友の葬儀のため帰郷した刑事が、故郷を離れる原因となった20年前の事件と旧友の死に繋がりを嗅ぎとる。
原題は“The Dry”。温暖化による旱魃にあえぐ、渇き切った田舎町の今昔描写が魅せる。
"The Dry"https://twitter.com/pherim/status/1572789914483458048
『渇きと偽り』のどこまでも平坦な荒涼大地と、田舎町の閉塞した関係性がもたらす出口のなさが白昼に闇を生む構成は、同じく豪州俳優&スタッフで固めたニコール・キッドマン主演作『虹蛇と眠る女』を連想させる。アボリジニ神話への紐づけが安易に登場しないのは時代性かも。原作者の嗜好は別として。
『虹蛇と眠る女』連ツイ https://twitter.com/pherim/status/697597471069843456
note「歌でつながる見えない道」https://note.com/pherim/n/nad1d4a86d07d
アボリジニ ドリームタイム連ツイhttps://twitter.com/pherim/status/699748709391736832
『スーパー30 アーナンド先生の教室』
インド全国から貧困家庭の子を無償で預かり、世界最難関校の一つインド工科大学へ合格させ続ける実在の私塾と塾長の半生描くインド版“ドラゴン桜”。
歌あり踊りあり、カースト観念の染みつく高慢さや諦めを撃ち抜く演出は痛快で、挫折と克己を描く物語が清々しい。
"Super 30" https://twitter.com/pherim/status/1572418035721605120
『スーパー30 アーナンド先生の教室』の受験戦争描写は、塾経営にスポットが当たる点で新鮮でした。『きっと、またあえる』では受験プレッシャーから自殺未遂に走る子も登場するけれど、インドの受験戦争はまだまだ加熱途上なのでしょうね。
『きっと、またあえる』"छिछोरे" https://twitter.com/pherim/status/1294830687015456770
■9月24日公開作
『暴力をめぐる対話』
マクロン政権下の暴動と鎮圧を捉えたスマホ映像集積を介し、市民/警察/学者らが対話を試みる。
“国家による暴力の独占”というホッブス、ヴェーバー以来のテーゼを巡り、失明など傷負った市民と、パゾリーニさえ引用する警官らの直接対話が醸すフランス社会の特異性こそ隠れた主役。
"Un pays qui se tient sage" "The Monopoly of Violence" https://twitter.com/pherim/status/1571464582245548033
『暴力をめぐる対話』は、暴動/対話/終幕の3点で『Blue Island 憂鬱之島』を強く想起させる。
ただし前者では、警官や憲兵隊少将まで市民対話の場へ出て議論を交わす。両作とも登場する皆が終幕で順に顔を出すが、憂鬱之島では著名人でも名を伏される。日本ならと仮想する。
『Blue Island 憂鬱之島』https://twitter.com/pherim/status/1535481191482085376
『バビ・ヤール』“Babi Yar. Context”
ロズニツァ新作は、1941年9月ナチス占領下キーウ郊外の窪地で、ユダヤ人3万超が2日の間に虐殺された事件を追う。
ヒトラー歓迎ムードと独ソ戦の凄惨から、ソ連勝利後の人民裁判、公開処刑の熱狂と埋め立て後の静寂まで、全編アーカイヴ映像の衝撃は言絶の域。
"Babi Yar. Context" https://twitter.com/pherim/status/1566984259675787266
拙稿「ルーシの呼び声(4)」
URL近日追記
拙稿「カルト、抵抗、不可能性。 再監獄化する世界(6)」
http://www.kirishin.com/2022/08/29/55942/
余談。
このさき半月ほど、外在化された締め切り的な縛りがとりあえず皆無で、けれど内発的なタスクが山盛りで解消困難というあまり経験のない不思議な状態へ入ることが今さら判明。これも過渡期的ナニカなのだろうけど、来月中盤以降は映画祭ラッシュ突入不可避なので、やうやう楽しんでいこうとぞ。
おしまい。
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