pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
11月14日
19:11

ふぃるめも245 第35回東京国際映画祭《1》 コンペティション部門

 
 

 今回は、第35回東京国際映画祭(2022年10月24日~11月2日開催)コンペティション部門上映作から12作品を扱います。(含再掲1作)

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第245弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■第35回東京国際映画祭コンペティション部門
 https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...

『1976』
司祭から男を匿うよう依頼された主婦による、独裁政権下こころのひとり地獄旅。
ピノチェトに潰されたアジェンデ時空が司祭に凝縮されるチリらしさ。鮮烈な色遣いや音感覚の良さなどパブロ・ラライン同系下位の印象否めず、女性の心理描写一点で優る感。ゆえTIFF最優秀女優賞も順当かと。

"1976" https://twitter.com/pherim/status/1594324040432635905

 パブロ・ラライン監督チリ舞台作:
 『エマ、愛の罠』https://twitter.com/pherim/status/1308974656871960576
 『NO』https://twitter.com/pherim/status/514430856148971522
 『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』https://twitter.com/pherim/status/927103966839586816





『ライフ』“Жизнь”
妻の中絶意志を翻すため無理を重ねるキマジメ男、全てが裏目に出続け闇落ちる。
SEからCEOという奴隷へ、モスクから正教会へ。良識常識が宙吊り化した反世界に生きる人間群像鮮烈、現代諷刺も凄烈なエミール・バイガジン監督新作。
’14年極私Best『LIFE!』暗黒版の趣き最の高。

"Жизнь" "Life" https://twitter.com/pherim/status/1585628731439448064

 『LIFE!』https://twitter.com/pherim/status/423360093556441089
 
 


『アシュカル』
チュニスで連続焼身自殺の謎追う寡黙な女刑事が、夜の廃都で真実を目撃する。
革命で廃墟化した再開発地区を舞台に、焼身自殺から始まったアラブの春を下地へ響かせる。
終盤の弱さは惜しいが、The Bridge(北欧)/The Tunnel(英仏)など欧州良作を継ぐノワール演出で魅せる。

"Ashkal" 司祭から男を匿うよう依頼された主婦による、独裁政権下こころのひとり地獄旅。

ピノチェトに潰されたアジェンデ時空が司祭に凝縮されるチリらしさ。鮮烈な色遣いや音感覚の良さなどパブロ・ラライン同系下位の印象否めず、女性の心理描写一点で優る感。ゆえTIFF最優秀女優賞も順当かと。





『ザ・ビースト』
スペイン北部ガリシアの山村へ移住したフランス人夫婦への、隣人の嫌がらせエスカレートが止まらない。
有力者兄弟に結晶化された、村社会の理不尽な排斥熱描写が凄まじい、ピレネー国境への執着窺わせるロドリゴ・ソロゴイェン監督作。次はバスク/アンドラ物など期待。

"As Bestas" "The Beasts" https://twitter.com/pherim/status/1590317651578228738

 ロドリゴ・ソロゴイェン前作『おもかげ』https://twitter.com/pherim/status/1291939654501986306
 『すべての月の夜』 “Ilargi Guztiak” https://twitter.com/pherim/status/1501031246322802690


『ザ・ビースト』TIFFグランプリ受賞を入り口に、今年の東京国際映画祭&東京フィルメックスをめぐり書きました。
“移民と暴力”テーマの共時性、へ影落とすウクライナの砲声、映画祭の現在と未来など。

  【映画評】2022年の世界像、国際映画祭にできること。- キリスト新聞社
  http://www.kirishin.com/2022/11/12/57076/





『マンティコア』
VR上に怪物を生み落とす天才ゲームデザイナーの、謎めいた少女との恋の道行き。そして疼きだす、内なる獣。
ファンシーノワールな『マジカル・ガール』からファンタジーノワールへ。共通する深い日本loveとミステリアス演出が心地よい。急ぎすぎ粗さ目立つ終盤はやや惜しまれる。

"Mantícora" https://twitter.com/pherim/status/1590173933885878273

 『マジカルガール』https://twitter.com/pherim/status/705945265346220032
 『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』https://twitter.com/pherim/status/865001033377828867

 
 


『窓辺にて』
“妻の浮気に傷つかない自分に傷つく”男を演じる稲垣吾郎、『十三人の刺客』のサイコパス殿様に並ぶ低温狂気がハマりすぎ楽しすぎた。高校生作家役・玉城ティナとのズレた会話最高。
若葉竜也、もはや今泉力哉宇宙の定点という印象。『街の上で』再来感ある穂志もえかとの絡みに和む。

"" https://twitter.com/pherim/status/1587236575834157056

 『街の上で』https://twitter.com/pherim/status/1378335473408466948

ところで『窓辺にて』では稲垣吾郎 さんが道具を左手で使う場面が度々ある(↓)のだけど、特にチーズケーキをフォークで切る仕草に、あれ?と疑問を感じました。
もしかして元は右で使ってた派かなと。(矯正か否かはともかく)
実は大昔、彼の左手役のオファーを貰ったことがあり。(続

って吾郎さんコロナ罹患!今知ったhttps://contents.atarashiichizu.com/?p=19633
29日夜に不調を感じたそうだけど、まさにその夜同じ場にいました。稲垣吾郎 x 今泉力哉『窓辺にて』TIFF対談、滅茶面白。
https://twitter.com/pherim/status/1587435707261648896
てなわけで、十代の頃から一方的に薄っすい縁を感じるかたなのでした。お大事に~

『窓辺にて』第35回東京国際映画祭観客賞受賞。
今泉力哉監督受賞コメント、自作で大事にするミクロな視点から、稲垣吾郎 コロナ罹患への気遣いを経て世界情勢へ言及。
おめでとうございます〜
コメント動画https://twitter.com/pherim/status/1587728864683642881




『輝かしき灰』
メコンデルタの僻村に暮らす女3人が苦難と向き合う。
汽水域の生活様式ギミックと灰左様ならの火焔ロマンで魅せる、『漂うがごとく』ブイ・タク・チュエン監督新作。各々“個性的”なダメ男が物語を駆る構成の穏やかな抑揚ぶりに、『第三夫人と髪飾り』の製作+編集参加が功奏した感。

"Tro Tàn Rực Rỡ" "Glorious Ashes" https://twitter.com/pherim/status/1593074581530906626

 『漂うがごとく』追記予定
 『第三夫人と髪飾り』https://twitter.com/pherim/status/1183267472671006720





『カイマック』
スコピエ舞台の団地コメディ。
バルカン~中東の乳製品kaymakが社会階層を貫き、《不倫現場に妻現わる》の修羅場が陽気な3Pへ移行する中盤からの笑撃加速がバリ楽しい。
女3人が話を回す構成は前作“柳”同様、うち役者2人が連続出演する安定のミルチョ・マンチェフスキー新作。

"Kaymak" https://twitter.com/pherim/status/1585791371520409600

 『柳』“Willow”2019 https://twitter.com/pherim/status/1502856971292012544




『孔雀の嘆き』
極貧青年が、妹の心臓手術代を稼ぐため児童密売組織で働きだす。
中国に“買われる”スリランカの現状を背景に響かせた養子縁組ビジネスの主題化や、是枝裕和『ベイビー・ブローカー』や河瀨直美『朝が来る』にも通じる諷刺性、独特のカット構図など良い。冗長すぎる語り口は難あり。

"Vihanga Premaya" "Peacock Lament" https://twitter.com/pherim/status/1596745375574294533

※メモ:同じく妊娠テーマの2021TIFF『ASU:日の出』監督新作。

 『ベイビー・ブローカー』https://twitter.com/pherim/status/1533292692117295104
 『朝が来る』https://twitter.com/pherim/status/1316578113199828992





“This Is What I Remember”
ロシアから記憶を失くした父が帰る。
新しい夫の元へ嫁いでいた母は激しく動揺する。
記憶喪失に、キルギスの現在が象徴される。それは前作『馬を放つ』が夢みた解放より極度に哀しく、生臭く痛々しい。両作監督&主演アクタン・アリム・クバトの静かな憤怒が炸裂する。

"This Is What I Remember" https://twitter.com/pherim/status/1586706655538204673

 『馬を放つ』https://twitter.com/pherim/status/974567944469454849

キルギス映画“This Is What I Remember”は、ロシア正教の祭列や吊り橋上の交錯、イスラームのイマーム(学識僧)との非友好的な接触など、ギミック配置の水準でも前作『馬を放つ』“Centaur”と多くの共通項をもつ。
取材機会あればぜひ訊いてみたい処。来春?日本公開予定っぽい。

 拙稿「草原で十字を書き入れること」http://www.kirishin.com/2018/03/31/11839/




『第三次世界大戦』
日雇い親父が映画撮影現場にエキストラ兼見張りとして住み込むと、ヒトラー役に抜擢されて本人ビビる。
劇中劇の強制収容所再現が全体の隠喩表現となり、聾の娼婦を匿うことから外部へ広がる物語運びは巧い。この厚みと諧謔具える監督が1980年生まれというから今後も楽しみ。

"Jang-e Jahani Sevom" "World War III" https://twitter.com/pherim/status/1596337723241295872
 
ちな『第三次世界大戦』主演のモーセン・タナバンデは、イスラーム映画祭7上映の『アジムの母、ロナ』でも息子役で(下↙)準主演。
アスガー・ファルハディ『英雄の証明』にも物語進行の転回点となるヒール役親父(下↘)で好演。こちらは纏うオーラが異なりすぎ気づかなかった。
 
 『アジムの母、ロナ』https://twitter.com/pherim/status/1518936926786822145
 『英雄の証明』https://twitter.com/pherim/status/1509375272084070400
 『ウォーデン 消えた死刑囚』https://twitter.com/pherim/status/1361872354847064067

 
 

 
『テルアビブ・ベイルート』
女ふたりの“約束の地カナン”縦断ロードムービー。
軍務地で失踪した息子と、故国で百年の実刑が待つ父。各々に背負う家族の危機がイスラエル/レバノン紛争史を体現する。
稠密な情感描写に魂抜かれる。1977年ハイファ生まれの女性監督Michale Boganim。この人は来る。

"Tel Aviv Beyrouth" "Tel Aviv Beirut" https://twitter.com/pherim/status/1592155554302263296

『テルアビブ・ベイルート』“Tel Aviv Beyrouth”で、
一番心に迫った場面がそのまま切り出されてる動画。↑
まぁ観て。母と娘(と白猫)が揺れる白い洗濯物のなか舞い始める。継承と抑圧、男の不在、諸々が昇華する一瞬の解放。
二国間現代史まとう複雑さがTIFFでの評価を下げたけど、傑作かと。

 サラ・アドラー出演良作:
 『彼が愛したケーキ職人』https://twitter.com/pherim/status/1066850817888538624
 『運命は踊る』https://twitter.com/pherim/status/1047436115370684417


主演女優Sarah Adler過去作および最高すぎる予告動画↑めぐり追記予定。





 余談。

  拙稿「2022年の世界像、国際映画祭にできること。」
  http://www.kirishin.com/2022/11/12/57076/
  第35回東京国際映画祭と第23回東京フィルメックスを巡り書きました。


 TIFF全体のマイベスト10です。https://twitter.com/pherim/status/1590280973878714368

 上記コンペ12作からはトップの『ライフ』以下3作がランクイン。『窓辺にて』は入れて良かったなって地味に思います。なんか無意識に別枠へ入ってました。

 で、極私的次点=11位の『ザ・ビースト』が、公式では3冠(グランプリ/最優秀監督/最優秀男優)奪取。あらー。
 
 正直かなり防衛的な選択だなと。それに比べ最優秀芸術貢献賞『孔雀の嘆き』は、去年の同賞バイダロフ『クレーン・ランタン』獲得に並ぶギャグ感があって良いです。“お芸術”感覚といいますか。(芸大出ててそれ言うかって話ですけど。)





おしまい。
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