pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
11月17日
01:20

ふぃるめも246 土喰らう奈落の戸締まり

 
 

 今回は、11月11日~12日の日本上映開始作を中心に10作品を扱います。
 (含短篇2作:前回TIFF1コンペ編で長編12作-再掲1作を扱ったため調整

 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第246弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 

■11月11日公開作

『わたしのお母さん』

近くて遠い母との距離が、私の日々を孤独にする。
ふとみせる戸惑いの仕草、ためらいの目線。
井上真央の透徹した演技の細やかさを、“天然の鬱陶しさ”を醸す石田えりの表現力が引き立てる。冷静に状況を捉える杉田真一の演出含め、《誠実さ》こそ主役であるかのような珠玉作。

"" https://twitter.com/pherim/status/1592350507162796032 
 
『わたしのお母さん』、公式の井上真央/石田えり/杉田真一監督各インタビューがとてもいいし、少し映画の続編のような要素もあるので、映画が気に入ったひとはパンフ推奨。
あと脚本/撮影/照明/録音/美術/編集が全て1976~78年生まれの日本人というのは、たぶん本編の求心性と深い処で繋がっている。


 

『ランディ・ローズ』
夭折の天才ギタープレイヤー回顧ドキュメンタリー。
25歳で散った荒々しくも完璧な技術を、映像とオジー・オズボーンやヴァン・ヘイレンらの証言で再現する。
ギリVHSが普及しきる以前の死ゆえ、世代間でイメージ格差の大きな現状に照らせば妥当な淡々カタめ構成が説得的。

"Randy Rhoads: Reflections of a Guitar Icon" https://twitter.com/pherim/status/1591981168479830017

 『カーマイン・ストリート・ギター』https://twitter.com/pherim/status/1160039030085435392
 『ギターマダガスカル』https://twitter.com/pherim/status/639935388161675264





『すずめの戸締まり』
宮崎発宮城行きの現代神話、堪能しました。巧いなぁって数分に一度唸らされたな。
世界的にもかなり評価される予感。それも鬼滅よりジブリのラインで。
極私的には『ほしのこえ』での驚きと『君の名は。』の衝撃に並ぶ、新海誠サードインパクト来ました感。楽しかったわぁ。

"" https://twitter.com/pherim/status/1590906923272245248

『すずめの戸締まり』の小ネタ1つ。
中盤で1分程、皇居内濠地下の巨大洞窟内にたつ羅生門のような寺社建築が登場します。
これ“皇居から国会議事堂への秘密通路”や“議事堂地下の戦時プラットホーム”等の都市伝説にも絡む、“道灌/家康期へ遡る江戸城地下屋敷”伝説由来かと。考察サイト楽しみです。

『すずめの戸締まり』小ネタ2つ目。
スナックママ役/伊藤沙莉、ちょい役の声だけでも唯一無二のキャラ立ちでした。今後も日本映画/ドラマを代表する性格俳優の道を歩むことが確信されますね。
おまけ↘公式配布の新海誠同人誌より猫神様。サダイジンとのスピンオフ待たれる。(https://twitter.com/pherim/status/1591229286677381120)

 Best of 伊藤沙莉『ちょっと思い出しただけ』https://twitter.com/pherim/status/1466739196845260810
 レア系伊藤沙莉『ホテルローヤル』https://twitter.com/pherim/status/1320923203561164800


※『すずめの戸締まり』は公開日にツイ開始。これから観るひとが桁違いに多い作品なのは確実なので、物語への言及を避ける表記に。追記可能性あり。




『奈落のマイホーム』
念願のわが家とクセ強き住人たち。最近の韓流エンタメには珍しい下手さね、と感じだす頃突如ひらく奈落の入口。
地底500mへマンションごと落下する、パニックファミリーサバイバルという新提案。冒頭30分の溜めが利きまくる、上から隣棟も降ってくるこの最底世界を生き残れ。

"싱크홀" "SINKHOLE" https://twitter.com/pherim/status/1591639995336765440

 『トンネル 闇に鎖された男』https://twitter.com/pherim/status/863241222176989184




『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』
ペルシャ人と誤認され惨殺を免れたユダヤ青年の、数千語に及ぶ偽言語捏造サバイバル。
終戦後テヘランでレストランを開きたいナチス高官の、勤勉さと迷いの無さが切ない。
“The Song of Names”↓に重なる、組織的記録抹消へ個の想起力で抗う終盤は圧巻。

"Persian Lessons" https://twitter.com/pherim/status/1592692945719021570

 “The Song of Names”『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』https://twitter.com/pherim/status/1467341044694286337

『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』の捏造言語、ロシアの言語学者が監修した(どこ情報か失念)らしく、『異端の鳥』の人工言語Interslavic/Меджусловјанскыが連想される。
後者は正確には半人工で、古教会スラヴ語の現代版とも。現代ヘブライ語に通じるものがありますね。

 『異端の鳥』人工言語言及部 https://twitter.com/pherim/status/1312621570196557824
 
 


『土を喰らう十二ヵ月』
沢田研二x松たか子で魅せる里山の晴耕雨読。
食材の下拵えからしっとり映す精進料理映画良作。
禅由来の風物配置が按配ほど佳く、ジュリー主役+道元『典座教訓』の組合せは冒頭から意表突く。松たか子との付かず艶やかな距離感も良い。あと西田尚美定番の怖い女演技炸裂。

"" https://twitter.com/pherim/status/1592861755663060992

 『典座 -TENZO-』https://twitter.com/pherim/status/1178868593804509185




■11月12日公開作

『あなたの微笑み』

売れない天才(と書かれた服を着こなす)監督・渡辺紘文が、自作興行のためミニシアターを全国行脚する。
業界内幕物を逸脱する仕掛けも楽しく、何より各館の風情と館長の風貌とに見入る。移動し続けるリム・カーワイにしか現状撮れない、日本映画界との独特の距離感が味わい深い。

"" https://twitter.com/pherim/status/1591794610539745282

 リム・カーワイ過去作:
  『COME & GO カム・アンド・ゴー』https://twitter.com/pherim/status/1455525807342772225
  『新世界の夜明け』https://twitter.com/pherim/status/857768501917892608


※尚玄の役柄&前TIFFディレクター矢田部吉彦出演場面めぐり追記予定




■国内過去公開作(含映画祭上映作)

『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』

主人公オドカワの深層意識へ潜るなど新出場面を堪能。
とはいえ5時間を2時間へ再編集する主旨が、TV版の素敵奇妙(Odd!)な風趣と間合いを損なわせ、払った犠牲の大きさこそ惜しまれ。
映画不評で続編の気運消失とかでなく、2期への助走になればとぞ。

"" https://twitter.com/pherim/status/1571842518299607044

 『オッドタクシー』https://twitter.com/pherim/status/1439562396381499392

ラジオにぼんやり耳を傾け、眠そうな瞳から世間を見つめ街を流す中年タクシー運転手。

哀愁帯びるネオンの色彩、人との微妙な距離感、短い客を拾い続けるように淡々と進む伏線回収。くたびれてスロウ&メロウな演出の全てが滅法良い。かつメタにせり出してくる終盤の静かな衝撃。
 



‘Varsovie’ 1962
若者の狂騒の内に大戦の傷を炙り出す、『二十歳の恋』中の知られざるアンジェイ・ワイダ傑作短篇。
ライオンの檻の前で愛しあう恋人。からの白熊エリアに入った少女を助ける冒頭部で、少女の人形を引き裂く2頭の白熊は明白にナチスとソ連の暗喩。この反骨。(続

‘Varsovie' "L'Amour à vingt ans" https://twitter.com/pherim/status/1591187807951028224

 『二十歳の恋』中の「アントワーヌとコレット」by フランソワ・トリュフォー
  https://twitter.com/pherim/status/1539078598170386432


‘Varsovie’恋人役の男(三角関係)は『灰とダイヤモンド』主演Zbigniew Cybulskiで、若者の軽躁を『地下水道』や『世代』へ直結させる。

女はBarbara Kwiatkowska-Lass。西側亡命後ルネ・クレマンやファスビンダー作へ出演。日本語wikiはシャロン・テート言及のみながらポランスキーの初代妻。のち『ローザ・ルクセンブルク』(1986)でローザの母役出演。

 シャロン・テート殺害事件描く『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』スレッド
 https://twitter.com/pherim/status/1416974863240101888





■TV映画過去作(VOD配信中)

“Cycling the Frame”
西独 1988
うら若きティルダ・スウィントン27歳時の、
ベルリンの壁に沿って走り続けた自転車旅。
明るい陽光のもと鼻歌など奏で走り抜けるその光景は、報道が伝える堅固なイメージを突き破りのどかで怠惰な日常性を覗かせる。
翌年の崩壊を誰も予期してなかった午后の燦々。

"Cycling the Frame" https://twitter.com/pherim/status/1590550760924000256



 

 余談。
 
 “Cycling the Frame”はYoutube等に全編UPが複数ある他、MUBIでは高画質多言語字幕付にて配信中。
  21年後に同監督xティルダで同じルートを周る“The Invisible Frame”は後日ツイ予定。





おしまい。
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