今回は、11月16日~11月25日の日本上映開始作を中心に10作品を扱います。
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第247弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■11月16日配信作
『聖なる証』Netflix
4ヶ月何も食べてない少女の“奇蹟”を調査するため、英国人看護師がアイルランドの僻村を訪れる。
お前は何を信じるのか。十字架の威を借る男達と盲信に縋る女達のさばる19世紀の大飢饉後を物語る胆力は、コロナ禍の今日を鋭利に貫く。
食べまくるフローレンス・ピュー燦然。
"The Wonder" https://twitter.com/pherim/status/1593800163168247809
『聖なる証』鑑賞の手引き。
・舞台は1862年。百万人が死んだ大飢饉1845-9でアイルランド社会は反動化、反英国反プロテスタント感情↑に乗るカトリック強勢
・ナイチンゲール看護学校1860年設立。酒場で主人公のクリミア従軍言及あり
・メタ言及は飾りでなくレリオ監督魔術演出の核 (続
『聖なる証』の鍵は原題“The Wonder/奇跡”。
チリ人監督Sebastián Lelioの特徴は、現実感覚のマジカルな対象化演出。
ハリウッド進出作“Disobedience”ではラビ(冒頭)と継承者(終盤)が主題をくり返す。“聖なる証”ではこれを農婦役Niamh Algarがこなす。OP/EDのメタ語りも実は彼女。
Netflix新作『聖なる証』をめぐり書きました。
物語ること、信じること。
奇蹟が望まれる19世紀アイルランドの社会背景、
魔術的「第四の壁破り」の核心的今日性、
自由の審級、チリ人監督の過去作読解など。
【映画評】物語る奇跡のちから『聖なる証』- キリスト新聞社HP
http://www.kirishin.com/2022/11/21/57165/
■11月18日公開作
『ナイトライド 時間は嗤う』
一夜の犯罪劇を、94分ワンショットで描く意欲作。
本物の警官や不良に絡まれながら敢行された、実際に俳優が運転しベルファスト市街を疾走する蛮勇の極み。
リアル市街舞台ゆえ当然ながら、撮影手法が生む緊迫感で“Boiling Point”↓を凌ぐ作がこれ程早く現れるとは。
"Nightride" https://twitter.com/pherim/status/1593212050926604288
『ボイリング・ポイント/沸騰』https://twitter.com/pherim/status/1547191489905577984
『ファイブ・デビルズ』
浮遊する現在と母の過去。
闖入者に撹乱されたリアルの変容を、幼児の瞳が残酷なまでに鋭く映しだす。
悪魔化するほど強烈な女の切なき秘密へ人種/同性愛差別の呻きを反響させる、“パリ13区”共同脚本レア・ミシウスの監督長編第2作。第1作“Ava”が全然だった自分には嬉しい跳躍。
"Les cinq diables" "The Five Devils" https://twitter.com/pherim/status/1593437556762255362
『パリ13区』https://twitter.com/pherim/status/1518903392667848704
アデル・エグザルコプロス主演xセリーヌ・シアマ監『アデル、ブルーは熱い色』
https://twitter.com/pherim/status/481941763204993024
※アデル・エグザルコプロスめぐり追記予定
『宮松と山下』
ある死に役エキストラ中年が秘める過去。
“All You Need is Kill”の逆をゆく、死に続けることでリアルが撹乱する導入部の奇抜な面白さ。
生活に疲れた妹役・中越典子も久々の好演で、何より終盤に無音で進行する香川照之の表情演技が神懸かるだけに、素行スキャンダルは残念すぎる。
"" https://twitter.com/pherim/status/1603219863576924160
■11月19日公開作
『擬音 A FOLEY ARTIST』
小道具と技で映画の“音”を創る職人。
デジタルには至難の微細なニュアンスまで再現する音効技師フー・ディンイー/胡定一の来し方は、台湾映画史そのものを体現する。
その功績をシルビア・チャン始め中香映画人が熱心に語る姿に、華語映画の奥深さと現状への苛立ちをみる。
"擬音" "A Foley Artist" https://twitter.com/pherim/status/1594528610144366592
『消えゆく燈火』“燈火闌珊” https://twitter.com/pherim/status/1584903811399028739
■11月25日公開作
『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』
名声を極めた先の空中分解から再生、熟成期へ入る60’sに描く軌跡は、その後多くのロックバンドが嵌った隘路の雛形に思える。
凄いのはそこからで、“Saturday Night Fever”以降の彼らが与えた影響を語るクラプトン,ノエルらの熱量たるや。
"The Bee Gees: How Can You Mend a Broken Heart" https://twitter.com/pherim/status/1597078621826715648
『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』監督は、スピルバーグ歴代作の製作者Frank Marshall。
栄光の先の失墜への共感みせるクリス・マーティン(Coldplay)やリスペクト溢れるニック・ジョナス始め、大物の出演希望が殺到した由。
音楽ドキュメンタリー良作潮流、コロナ禍(怪我)の功名ね。
『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』https://twitter.com/pherim/status/1484734593400176640
『オアシス:スーパーソニック』監督言及 https://twitter.com/pherim/status/816564561687908354
『シスター 夏のわかれ道』“我的姐姐”
疎遠だった両親の事故死により家を相続した看護師の、初対面した幼い弟との心の道行き。
“女は近場で働き親を養え”と医師の夢を阻まれた女性がみせる、一人っ子政策がトラウマ化した自分本位の振る舞いと、血縁秩序や戸口制との軋轢生む中国景の熱さに唸る。
"我的姐姐" "Sister" https://twitter.com/pherim/status/1595989617232470016
『在りし日の歌』https://twitter.com/pherim/status/1245456901120208896
『最愛の子』https://twitter.com/pherim/status/687861242531188736
■国内過去公開作(含映画祭上映作)
『鳥類学者』“O Ornitólogo”
カヌーを漕ぎ野鳥観察にいそしむキャンプ男が、トレッキング中の中国人女2人に“捕獲”されて始まる奇天烈時空。
呆然と眺めるうち、人こそ観察される小さき者よと神主観に。ジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督って『ファンタズマ』“O Fantasma”の人かと事後知り諸々納得。
"O Ornitólogo" "The Ornithologist" https://twitter.com/pherim/status/1593574207035961346
『ファンタズマ』“O Fantasma” https://twitter.com/pherim/status/1247000073000480768
『鬼火』“Fogo-Fátuo” https://twitter.com/pherim/status/1594904880678068224
※『鳥類学者』はMUBIにて"The Ornithologist"題で配信中。
■国内配信中作品(『聖なる証』セバスティアン・レリオ監督作品)
『グロリアの青春』
2018年の同監督米国リメイクよりも作品性が高いのは、地味にハリウッドあるあるだけど。
“聖なる証”の流れで今回少し観直して、夜闇に羽を広げた白亜の孔雀と見つめ合う終盤ショットに、レリオ監督後続作とも通底する神的時間の憑依が感覚され沁みる。(詳述拙稿→
http://kirishin.com/2022/11/21/57165/ )
"Gloria" https://twitter.com/pherim/status/1595256652567281665
『グロリア 永遠の青春』ジュリアン・ムーア x ジョン・タトゥーロ
https://twitter.com/pherim/status/1470210530552197120
セバスティアン・レリオ監督他作:
『ナチュラルウーマン』https://twitter.com/pherim/status/969932627095388160
『ロニートとエスティ』https://twitter.com/pherim/status/1593949131030290432
『聖なる証』 https://twitter.com/pherim/status/1593800163168247809
拙稿「物語る奇跡のちから」http://www.kirishin.com/2022/11/21/57165/
■ポーランド映画祭2022
https://www.polandfilmfes.com/
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
https://twitter.com/pherim/status/1293741535620558849
イエジー・スコリモフスキ『イレブン・ミニッツ』
https://twitter.com/pherim/status/765736958794436608
イエジー・スコリモフスキ
『EO』
毎度驚かされるスコリモフスキ翁新作こたびは、果敢なるロバさん世界残酷紀行。
イザベル・ユペール御大の唐突なるカメラ目線登場も、突如のボストン・ダイナミクス百鬼夜行も煉獄行の瑣末な一挿話へ堕す勢い笑う。前半で席立つ人複数いたのが勿体なすぎる満席御礼。
"EO" https://twitter.com/pherim/status/1596393056777154560
※EOめぐるツイートは、恵比寿の東京都写真美術館で鑑賞後の興奮まぎれに投稿したゆえの雑さもあるので、後日あらため投稿の所存。とりま事後もろもろ考える面白さに充ちる作品でした。
拙稿「持続と収穫の文化力 《ポーランド映画祭2020》」
http://www.kirishin.com/2020/12/31/46725/
余談。
Netflix配信作『聖なる証』、これは書かざるをえんなという圧力と内容から、勢いで週末を潰して記事「物語る奇跡のちから」↓を書きにけり。それで先々週末に出稿し先週はじめに掲載された記事なのだけど、なぜか媒体サイトの記事ランキングに再浮上しこの週末3日間1位に留まってました。(現在5位)
拙稿「物語る奇跡のちから」http://www.kirishin.com/2022/11/21/57165/
しかしどこで読まれたのか、ネット上では兆候がまったく確認できず。ふだんpherimツイート等がある程度拡散した際にランキング上位へ上がることはあっても、こういうことはあまりないんですよね。でもたまにあります。気になります。
たまにあるのが、決まって自身けっこうよく書けたとおもう記事のときなのはなにか安心しますね。人々は基本、驚くほど読みに来ないので。たまにすぎるのが玉に瑕、とはいえ。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh