今回は、11月25日~12月3日の日本上映開始作を中心に、11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第248弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■11月25日開幕《ジェラール・フィリップ生誕100年映画祭》
http://www.cetera.co.jp/gerardphilipe/
『ジェラール・フィリップ 最後の冬』
夭折のスター俳優Gérard Philipe[1922-59]の生涯追うドキュメンタリー。
カンヌに生まれ、ナチスへ迎合する父に隠れて役者を志し、築いたコネで戦後に父を亡命させる。その出演系譜も見モノながら、癌非告知を選んだ妻との交接など人間模様の泥臭さに見入る。
"Gérard Philipe, le dernier hiver du Cid" "Gérard Philipe, the last winter" https://twitter.com/pherim/status/1599233020485308417
※ジェラール・フィリップ出演作追記するかも。
■11月26日公開作
『セールスマン』(メイスルズ兄弟, 1969)
「教会から来た」と意図を隠して家へ上がり込み、週1$(現7$)の出費を悩む労働者家庭へ聖書事典を売りつけるため、全米を旅して周る男たち。
信仰とモラルをテコに低額ローンへ主婦を巻き込む彼らの屈託を、一切の解説なしに映し続けるリアルの鮮度に見入る。
"Salesman" https://twitter.com/pherim/status/1470893588737593354
『セールスマン』想田和弘講義
観客質問に対する、通り一遍でない応答が逐一興味深い。(Q.アフレコの倫理性 A.俺はしないがグレーゾーン等)
想田監督自身が、被写体への暴力性を巡りメイスルズ兄弟やワイズマンへ尋ねてきたという話、自分も頻繁にする質問(↓)ゆえやや恐縮。
「観察映画における瞑想性をめぐって 想田和弘監督インタビュー」
https://note.com/pherim/n/nff4f08eb6307
■12月1日公開作
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
ベネディクト・カンバーバッチが、切なくも可笑しみ溢れるネコ挿絵画家ルイス・ウェインの生涯を演じきる。
幸福な結婚の早すぎる終わりに始まる、空中へ充ちる電気(という妄想)へ貫かれた稀有の道行き。画面を賑わせ続けるニャンコ達の愛嬌が堪らない。
"The Electrical Life of Louis Wain" https://twitter.com/pherim/status/1597947332682985472
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』のベネディクト・カンバーバッチは、妄想の世界に暮らしつつも夭折した妻をいつも想い、猫を描くときは無心に描く難しい演じ分けをやり抜き圧巻。
なんならネコ語も解するし、ネコ語の日本語字幕もきちんと出るので安心ですにゃ。
■12月2日公開作
『あのこと』“L'événement”
中絶が違法の’60年代フランスで、不意の妊娠に将来を断たれまいと様々に堕胎を試みる、アニー・エルノー自伝的小説の映画化作。
つわり嘔吐から金属棒を差し込むまで“痛さ”描写がTITANの生理を想わせる。が真に怖いのは、善き人々こそ主人公を抑圧し通す空気の表現。(続
"L'événement" "Happening" https://twitter.com/pherim/status/1597431406485196800
『TITANE/チタン』https://twitter.com/pherim/status/1508448526883192833
『RAW 少女のめざめ』https://twitter.com/pherim/status/1508053978432479238
※『あのこと』友人役(『燃ゆる女の肖像』使用人役)およびドゥニ・ヴィルヌーヴ初期仏語作『渦』めぐり追記予定
『燃ゆる女の肖像』https://twitter.com/pherim/status/1332916626879094784
『渦』“Maelström”https://twitter.com/pherim/status/812442986814410754
『マッドゴッド』
指先のうみだす生理、血肉の照かり、ぬめる闇。
パペット・ダークファンタジーの極北ついに。
神曲地獄篇からタルコフスキーの黙示録的深淵を抜け“The Tree of Life”の創世へ。CG到来で才能を凍結させた特殊効果神フィル・ティペットの倉庫から若い製作陣が素材発掘という秘話がもう神話的。
"Mad God" https://twitter.com/pherim/status/1598284304244953088
『死者からの手紙』https://twitter.com/pherim/status/1565340115589025794
『ボヤージュ・オブ・タイム』https://twitter.com/pherim/status/838368084394041344
『神々のたそがれ』https://twitter.com/pherim/status/589375565410406400
『ワイルド・ロード』
腹部に傷負う青年が夜行バスでゆく不穏なひとり旅。
ダメ人間揃いの登場人物中でも青年の実父が抜群にクズで、ケヴィン・ベーコン流石の妙演。一夜の片道バス車内から、電話で外部の物語を動かすワンシチュエーション構成は『ナイトライド 時間は嗤う』も想わせる。
"One Way" https://twitter.com/pherim/status/1598509353342230529
『ナイトライド 時間は嗤う』https://twitter.com/pherim/status/1593212050926604288
■12月3日公開作
『ミスター・ランズベルギス』
圧巻。
一介の音楽学教授がリトアニア独立気運の先頭に立ち、ゴルバチョフと斬り結びエリツィンと対峙する。
ソ連軍の首都侵攻、国連演説の勇壮、’91年独立へ。これを’21年に仕上げたロズニツァの炯眼と、毎度ながら膨大な映像アーカイブの渉猟編集術に驚かされる。
"Mr. Landsbergis" https://twitter.com/pherim/status/1589813414070988800
拙稿「ルーシの呼び声《4》」URL後日追記
同時系列の1991.8.19レニングラードを描くロズニツァ『新生ロシア1991』(2023年1月公開)
URL後日追記
ロズニツァ連ツイ 群衆三部作,ドンバス,バビ・ヤール他
https://twitter.com/pherim/status/1322013378240372736
『百年の夢 デジタル・リマスター版』“Obrazy starého světa”1972
土の匂い、皺の深さ、瞳の奥行き。
カルパチア山麓に暮らす老人たちの、光陰に磨き抜かれた個性もつ顔また顔の奔流に圧倒される。
プラハの春後、共産政権崩壊まで上映禁止の勲章携え、スロヴァキア奇跡の一作精彩版ついに到来。
"Obrazy starého sveta" "the Old World" https://twitter.com/pherim/status/1598952118597341184
『マルケータ・ラザロヴァー』https://twitter.com/pherim/status/1541659414037336067
『神に仕える者たち』“Služobníci/Servants” https://twitter.com/pherim/status/1558431452815294464
“Olanda” https://twitter.com/pherim/status/1244200744804159489
試写当日ツイ https://twitter.com/pherim/status/1590234119421980675
『百年の夢』は、顔の映画であると同時に手の映画だなと感覚。
月日に洗われた掌が放つ温度、土と風に象られ節くれだった指や手の甲の皺がみせる表情に見入る。
“醜さの美学”ゆえ上映禁止とした時の政権の狭隘な自意識とは真に対極の、極度に個性化された人間のリアルたち。
■国内公開中作品
『愛国の告白 ― 沈黙を破る Part2』
NPO “Breaking The Silence”を構成する元イスラエル戦闘兵らが、占領地パレスチナでの横暴を語る土井敏邦監督作。
同胞からバッシングされる彼らの来し方は様々ながら、昔日の理想が失望へ堕し新たな理想に燃える姿は清々しい。入植民の強面な佇まいも興味深い。
"" https://twitter.com/pherim/status/1599384967267901440
■VOD配信中作品(劇場非公開作)
『画家と泥棒』ノルウェー
無名画家の絵を盗み捕まる泥棒青年。
青年を描かせてという画家の依頼に始まる奇抜展開が、ドキュメンタリーである点に世界が驚き怪しんだ一作。
でも私的にグッときたのは己を描いた絵を見せられて、誰からも顧みられずに生きてきた青年が黙って滂沱の涙を流す場面。これは真。
"Kunstneren og tyven" "The Painter and the Thief" https://twitter.com/pherim/status/1599585066287792128
※配信情報+α追記予定
■VOD配信中作品(『聖なる証』セバスティアン・レリオ監督作品)
『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』
シナゴーグでのラビ教説中の死から始まるレイチェル・ワイズ&レイチェル・マクアダムス(やつれた表情演技!)のW Rachel百合物語。
超正統派ユダヤコミュニティの掟侵したラビの娘の愛と信仰描く、原題“Disobedience”の含意も熱いSebastián Lelioハリウッド進出第1作。
"Disobedience" https://twitter.com/pherim/status/1593949131030290432
セバスティアン・レリオ監督他作:
『聖なる証』https://twitter.com/pherim/status/1593800163168247809
『ナチュラルウーマン』https://twitter.com/pherim/status/969932627095388160
『グロリアの青春』https://twitter.com/pherim/status/1595256652567281665
『グロリア 永遠の青春』ジュリアン・ムーア x ジョン・タトゥーロ
https://twitter.com/pherim/status/1470210530552197120
拙稿「物語る奇跡のちから」http://www.kirishin.com/2022/11/21/57165/
余談。想定外のW杯視聴でただいま時間破産なう。
なにしてんだか my life, にゃん。
おしまい。
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