pherim㌠

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pherim㌠さんの日記

(Web全体に公開)

2022年
12月10日
22:59

ふぃるめも249 第35回東京国際映画祭《2》 ワールドフォーカス部門

 
 

 今回は、第35回東京国際映画祭(2022年10月24日~11月2日開催)ワールドフォーカス部門から10作品を扱います。(含短篇1作)

 ※同部門のうち、ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集上映作と、特別上映作『フリーダム・オン・ファイヤー』、『エドワード・ヤンの恋愛時代』4Kレストア版については近日別回にて扱います。

  ふぃるめも245 第35回東京国際映画祭《1》 コンペティション部門
  https://tokinoma.pne.jp/diary/4702


 タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート[https://twitter.com/pherim]まとめの第249弾です。強烈オススメは緑超絶オススメは青で太字強調しています。(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)


 
■第35回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門
 https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
 
『パシフィクション』
フランス人の育むタヒチ幻想が凝縮された、
ポリネシアまったりダークツーリズム。
ブノワ・マジメル扮する弁務官が、沖合の潜水艦での倒錯享楽や核実験再開などの噂を経巡る。アルベルト・セラ前々作『ルイ14世の死』の一点収束とは真逆ゆく“拡散”の妙趣。

"Tourment sur les îles" "Pacifiction" https://twitter.com/pherim/status/1595631060733550597

『パシフィクション』のように、配給されても小スクリーン上映な作品がどデカい箱でかかるのも、映画祭ならでは。
で本作上映のよみうりホール(1100席)、2階席は578席中に観客たった10人ほど。165分中幾度か席を移して観たら、景色の変容が味わいの変化を生み新鮮でした。

 TIFF中劇場画像: https://twitter.com/pherim/status/1585911807306534912




『波が去るとき』
警察の倫理と個の使命。2人の忠実な麻薬捜査官が分け入った魔境の果てで、静かに対決の時を待つ。
ラヴ・ディアス。穏やかに、そして苛烈に。
フィリピン・ドゥテルテ政権下で公僕の抱える矛盾が、老若の対峙構図へ結晶する。その映像的、時間的芳醇の為せる奥行きに言葉失う。

"Kapag Wala Nang Mga Alon" "When the Waves Are Gone"

 『立ち去った女』https://twitter.com/pherim/status/917032622332698626
  TIFF上映劇場直前ツイ: https://twitter.com/pherim/status/1585911807306534912





『鬼火』“Fogo-Fátuo”
21世紀後半の葡萄牙王政復古で王となる皇太子が、2022年のきょう家族の反対を退け消防士となる。
出逢った黒人教官との恋の焔さながらに舞い踊る四肢、全裸の四肢。林中の輪舞、名画ポーズ再現の唐突感、突然歌うよ時空の抜けの良さ。世界に一つだけのJoão Pedro Rodrigues。

"Fogo-Fátuo" "Will-o'-the-Wisp" https://twitter.com/pherim/status/1594904880678068224

 『ファンタズマ』https://twitter.com/pherim/status/1247000073000480768
 『鳥類学者』https://twitter.com/pherim/status/1593574207035961346

 
 


『R.M.N.』
トランシルヴァニアの僻村。息子を強い男に育てたい若パパと、相続したパン工場を延命させたい元恋人女性。
クリスティアン・ムンジウ重量級の力技で、山里の閉鎖環境を描くスリラー展開ながら、よそ者排除の機制に移民と地球経済が絡みゆく。自然破壊や医療ギミックまでてんこ盛り。

"R.M.N." https://twitter.com/pherim/status/1601448701377277954

 『エリザのために』https://twitter.com/pherim/status/825142440453558272
 
『R.M.N.』では、山中の僻村を生きる男女すらもが、もはやグローバル経済と直に接続した生を全うする“しかない”光景が描かれる。
誰もが無自覚に己の奴隷化を志す様は、ブリューゲル《雪中の狩人》で使役され狩られる動物に近く、人間からすでに遠い。ムンジウの炯眼と“Olanda”、狩猟採集と市場経済。 

 “Olanda”https://twitter.com/pherim/status/1244200744804159489
 『バイク泥棒』https://twitter.com/pherim/status/1337231189459968002
 『コレクティブ 国家の嘘』https://twitter.com/pherim/status/1443563926021566468

 
上位概念との連環が表象されがち(な作品が連想されがち)ルーマニア。
 



『スパルタ』“Sparta” Romania/Austria
旅で訪れた村の廃校に柔道教室を開いた男が、無自覚の小児性愛衝動へ駆られゆく。
ウルリヒ・ザイドル。観る者の精神をささくれ立たせる才能にかけては比類なきこの監督の、『サファリ』が捉えた動物虐待にも数段増して反倫理的かつグロテスクなショットの奔流にむせ返る。

"Sparta"

 『サファリ』https://twitter.com/pherim/status/1510595204436283394




『コンビニエンスストア』
ウズベク人の主人公女性が、出稼ぎ先モスクワのコンビニと郷里の綿花畑という二極の奴隷労働現場を彷徨う。
コンビニ舞台の日本映画が外国人労働者を不可視化しがち(例↓)な現状にも近い、鋭き今日的活写に唸る。その生権力的蠱惑へ導く、店主夫人の魔女化さえダブる共時性。

"Продукты 24" "Produkty 24" "Convenience Store" https://twitter.com/pherim/status/1604477165432541186

 『コンビニエンス・ストーリー』https://twitter.com/pherim/status/1580404554646327296

ロシア映画『コンビニエンスストア』、主人公のコンビニ店員が移民/難民属性をもつ点で、クルド人家族を描く川口市舞台作『マイスモールランド』も想起され。
こちらは藤井隆がコンビニ店長役で良い味だしてましたね。日本語が母語な2世の子たちの生活権を縛る描写は痛切でした。

 『マイスモールランド』https://twitter.com/pherim/status/1520996048453632000




『タバコは咳の原因になる』
ニコチン、ベンゼン、水銀らが擬人化された戦隊コメディ怪作。
各々有害物を腕から放ちそれなりに怪人を退治し、子供たちの尊敬もそこそこ集めるが、そも政治的に正しくないヒーローなので色々切ない。
怖い話に没頭し宇宙の危機を迎える終盤まで抱腹絶倒の77分。

"Fumer fait tousser" "Smoking Causes Coughing" https://twitter.com/pherim/status/1601054074778288128




『ラ・ハウリア』“La Jauría”
人知れず奴隷労働の悪事へ及ぶ少年更生施設で、ストリートキッズは覚醒しカルト化する。
教祖となった少年が独裁敷く中南米現代史諷刺は鋭利ながらも、『MONOS 猿と呼ばれし者たち』後↓では全方位格落ち感。ただ密林の繁殖力に敗れたお屋敷良景、生理的“痛さ”表現は抜群でゾワゾワきた。

"La Jauría" https://twitter.com/pherim/status/1595036582473797632

 『MONOS 猿と呼ばれし者たち』https://twitter.com/pherim/status/1451815557083189248
  拙稿「子どもの宇宙とこの自由」http://www.kirishin.com/2021/10/27/51237/





『ルーム・メイド』“Camarera de Piso”
ホテルでルームメイクの仕事中に家族と電話し、何らかの急場をしのいでいるらしい中年女性が、不意にスイートの上客へ変身する12分短篇。Lucrecia Martel監督作。
“La Jauría”監督Andrés Ramírez Pulido曰く「併映されることが重要」と。影響受けてるのは確かっぽい。
[動画見当たらず]
"Camarera de Piso" "Maid"




『クロンダイク』
2014年ドンバス戦争勃発。夫婦は誤射で壁を破壊された草原の家に住み続け、妻は臨月を迎える。
黒海北岸ステップ地帯の戦場化描写が逐一具体的で生々しい。妊娠という生理と国際情勢がシームレスに連動し、壁の大穴を通し匿名的個人とマレーシア航空機墜落の煙が接続する寓話性。

"Klondike" https://twitter.com/pherim/status/1601917613478924288

 TIFF2022大穴あく家の孕む共時性: https://twitter.com/pherim/status/1585755455040950272
 マリナ・エル・ゴルバチ監督前作『ラブ・ミー』“Sev beni”
 https://twitter.com/pherim/status/1567496223325843457
 音楽Zviad Mgebry過去作『ダンサー そして私たちは踊った』“და ჩვენ ვიცეკვეთ”
 https://twitter.com/pherim/status/1226344413862907904
 拙稿「ルーシの呼び声《4》」URL後日追記


 ジョージア映画『ダンサー そして私たちは踊った』“და ჩვენ ვიცეკვეთ”2019 の音楽監督Zviad Mgebry新作が『クロンダイク』“Klondike”2022。ロシア侵攻を受けた人々奏でるしなやかな協働性の木霊を遠く聴きとる。





 余談。TIFFふぃるめも年内に完結できたら、それはそれでささやかなる一つの達成。までの峠越えだん。





おしまい。
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