今回は、第23回東京フィルメックス上映作から11作品を扱います。(含再掲2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第284弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■第23回東京フィルメックス コンペティション部門
https://filmex.jp/2022/program/competition
『沈黙の自叙伝』『自叙伝』“Autobiography”
父のように慕う元将軍の暗黒面を知った青年の煩悶と決断。
雨中の葬列や露天掘り炭鉱の異景など、昏い画で魅せる巧さも具えたクライムノワール秀作で、権勢奮う元将軍との対峙描写へ凝縮された当世諷刺が物凄い。
マルリナ/復讐は神に~etc.インドネシアのジャンル映画が熱すぎる。
"Autobiography" https://twitter.com/pherim/status/1698679737043038571
『マルリナの明日』https://twitter.com/pherim/status/1129225759229218817
『復讐は神にまかせて』https://twitter.com/pherim/status/1455686581109420032
マクバル・ムバラク監督作『自叙伝』、
第23回東京フィルメックス最優秀作品賞獲得!
Congratulations to every “Autobiography”'s staff & actor on the Grand Prize of FILMeX2022!!;)))
悪の権力者を一角の人格者として描く、インドネシア社会の深い相克を映す迫真作でした。
『ダム』
スーダン、ナイルのほとりで泥の巨像を造り続ける男。
夢で古代神と語らい、友は水死体で見つかり、不穏な政情をラジオが伝え、犬は殺され、豪雨で泥が流される。
何かの寓話には違いない、けれど容易には像を結ばないメタファーの奔流。その陽炎感覚と映像美にひたすら見入る。
"The Dam" https://twitter.com/pherim/status/1645986798831808514
『汝は二十歳で死ぬ』https://twitter.com/pherim/status/1383772514757713922
『ようこそ、革命シネマへ』https://twitter.com/pherim/status/1245813308101259269
『戦火のランナー』https://twitter.com/pherim/status/1401179052770095108
『南スーダンの闇と光』https://twitter.com/pherim/status/1334850440064688128
『あしたの少女』“Next Sohee”
数値化された目標にとり囲まれ、追いたてられ窒息する少女の悲しい選択。学校も会社も警察さえも目を背ける陥穽が少女を襲う。
刑事役ペ・ドゥナの燃える双眸に戦慄する。この大女優へ拮抗するキム・シウンの瑞々しさにも息を呑む。韓国社会の闇を直視する質実作。
"Next Sohee" https://twitter.com/pherim/status/1695049698334376024
『同じ下着を着るふたりの女』
母娘の激情的すれ違い。
“母性”に負わされた宿痾を描くキム・セイン監督作。“はちどり”キム・ボラの一回り下92生まれ、女性監督新潮流の台頭鮮烈。
発作的に娘を轢いてしまう母の毒親ぶりは、香港の秀作短編『32+4』を想起させる。同世代監督ゆえの共時性はありそう。
"같은 속옷을 입는 두 여자" "The Apartment with Two Women" https://twitter.com/pherim/status/1657944805740249088
『はちどり』https://twitter.com/pherim/status/1358781785048547330
『32+4』https://twitter.com/pherim/status/1633377542517428226
『ソウルに帰る』
幼い頃フランスへ養子に貰われた主人公が、実親に会うため韓国を訪れるも異文化摩擦に神経をすり減らせる。
出生地での孤独の果てに出逢うもの。カンボジア系仏人監督ダヴィ・シュー自身の経験が反映された映像に、2016年作ダイアモンド・アイランドの万華鏡感が想起される。
"Return to Seoul" "Retour à Séoul" "올 더 피플 이윌 네버 비" https://twitter.com/pherim/status/1663327880540209154
ダヴィ・シュー監督2014年作『ダイアモンド・アイランド』
https://twitter.com/pherim/status/852136967055736832
ダヴィ・シュー製作2021年作『ホワイト・ビルディング』
https://twitter.com/pherim/status/1465885528683790343
ダヴィ・シュー ラインプロデューサー参加2021年作『ONODA 一万夜を越えて』
https://twitter.com/pherim/status/1446082494705459208
『ソウルに帰る』、カンボジア系フランス人監督ダヴィ・シューの醸す、所々で場を主役とするかのような静けさは、名作コロンバス/アフター・ヤンのコゴナダにも似る。
異人種マイノリティの傍観者的静謐とも言い換えられそうな。イケイケ韓流作群とも異なる持ち味。8/11公開。
■第23回東京フィルメックス 特別招待作品
https://filmex.jp/2022/program/specialscreenings
『ホテル』“旅館”
チェンマイのリゾートホテルにコロナ禍で足止めされた人々の鬱屈。停滞する時間と、束の間の解放と。
王小帥/ワン・シャオシュアイ監督作。長編傑作『在りし日の歌』の圧こそないものの、モノクロ映像の緊密さは流石。“MEMORIA”他のLee Chatametikool編集。
"旅館" "The Hotel" https://twitter.com/pherim/status/1704060792486900030
『在りし日の歌』https://twitter.com/pherim/status/1245456901120208896
『MEMORIA メモリア』https://twitter.com/pherim/status/1491968334459404289
『すべては大丈夫』“Everything Will Be Ok”
リティ・パンによる『消えた画』を継ぐ人形劇。
クメール・ルージュの暴虐から人類史的文明批判へ標的を広げる意欲は分かるし、風合いと表情に富むパン製人形も良い。ただ監督としての本領は別にあるとしか思えず正直微妙。大丈夫とは感じない。
"Everything Will be OK"
『消えた画 クメール・ルージュの真実』https://twitter.com/pherim/status/526289838421454848
『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』https://twitter.com/pherim/status/488145956018208769
『飼育』https://twitter.com/pherim/status/1153069860257030144
『紙は余燼を包めない (Paper Cannot Wrap Up Embers)』https://twitter.com/pherim/status/906849474672078849
『熊は、いない』“No Bears”
出国禁止の続くジャファル・パナヒ監督が、イラン/トルコ国境のトルコ側での撮影を、イラン側の村からネット通話で指示する暮らし。
そのままならなさに、因習と政治に阻まれた2組の悲恋が重なりゆく。昨年7月収監されたパナヒだけが為し得る、神懸かり的構成に息を呑む。圧倒的絶無の体感。
"No Bears" https://twitter.com/pherim/status/1699611722007662936
『人生タクシー』https://twitter.com/pherim/status/852829527315144705
『ある女優の不在』https://twitter.com/pherim/status/1200988434304626689
2022年Filmex初見時ツイ https://twitter.com/pherim/status/1589230979306360832
『ナナ』“Before, Now and Then”
’60年代の内戦で家族を失くした女性の、魂の彷徨と出逢い、そして解放。
カミラ・アンディニ長編第4作で、現代史批判へ寄せ『見えるもの、見えざるもの』他の弱さ脱却を試みて強味を潰した感。彼女だけの優れた幻想路線を一旦極めた後の諷刺こそを観たい。
"Before, Now and Then" https://twitter.com/pherim/status/1721365203282174204
『見えるもの、見えざるもの』
https://twitter.com/pherim/status/1235760025169047552
『ユニ』
https://twitter.com/pherim/status/1482924398571327490
■メイド・イン・ジャパン
https://filmex.jp/2022/program/made-in-japan
『石がある』
さまよう若い女と、河原の石で水切り遊びをする男との、子どもに還ったような束の間の充溢とその終わり。
ストローブ=ユイレ版ボーイミーツガール草食編の趣きで、Q&Aにて太田達成監督がフレーム外の音など言及し始め至極納得。助監督参加の清原惟作品とは世界線の隣接を感覚する。
[動画見当たらず]
"There is a Stone" https://twitter.com/pherim/status/1588157781735256065
清原惟スレッド https://twitter.com/pherim/status/949940717396271105
S/H『ジャン・ブリカールの道程』https://twitter.com/pherim/status/1060562205417005058
『石がある』には、上述S/Hや清原惟の作品世界が具える不穏さをほぼ感覚せず、けれど音作りが繊細な作品に特有の言い知れない奥行きは存分にある。コミカル要素には安易さも。
独特の緩いテンポは、監督生来かなとQ&Aを聴きつつ想う。
※Q&Aから膨らんだ雑感など後日追記
■ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集
https://filmex.jp/2022/program/sp
『西瓜』
記録的な猛暑と水不足に襲われた街で、うだる時を生き延びる人々の仄かな狂気。
雑に割った西瓜を開いた股間へ挟む日本人AV女優(夜桜すもも)と、西瓜汁を啜る李康生/リー・カンションの構図など、炸裂する性と低予算実験風味が初期作ぽいけど割と中期な蔡明亮/ツァイ・ミンリャン2005年作。
"天邊一朵雲" "The Wayward Cloud" https://twitter.com/pherim/status/1613040495156162567
『郊遊 ピクニック』2013 https://twitter.com/pherim/status/520384832598077441
『蘭若寺の住人』VR 2017 https://twitter.com/pherim/status/1360205279900569603
『あなたの顔』"你的臉" 2018 https://twitter.com/pherim/status/1275261955637301249
『日子』2020 https://twitter.com/pherim/status/1350040145676836869
『西瓜』にはレトロバブリーな構図も散見され、80~90's日本のPVや四天王期の香港にも通じる極東世紀末の騒がしい明るさを想起させる。当時夢見られた未来は、今この現実とは全く異なる流れの向こうへ霞んでいる。
偶然拾った、蔡明亮本人による開脚西瓜ポーズ。
なに需要に応えてるのかわからない。
(画像)
余談。上記「80~90's日本のPVや四天王期の香港」に引きつけて、
レスリー・チャン《MONICA》MV、’84年TVB製作↓。
https://twitter.com/pherim/status/1160158962555056128
振り付けが面白すぎ。特にバックダンサー3人娘、現れる度じわじわ来て、突如の腰回転にトドメ刺される。
ちなTV局TVB(無綫電視)は、香港で今最も炎上中の企業。中国寄りと批判浴び大塚がポカリCM引き上げ、ポカリ爆売れなう。
おしまい。
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