今回は、《イスラーム映画祭3》上映全13作品を扱います。
イスラーム映画祭3公式HP: http://islamicff.com/index.html
タイ移住後に劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第85弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
『ラヤルの三千夜』
冤罪によるパレスチナ人女性の実話ベース監獄体験。囚人間の抗争や看守との癒着など序盤は既視感もあるが、主人公が牢獄内で出産して以降の展開が凄まじい。レバノンでのパレスチナ人虐殺に呼応した獄中騒動が状況を沸騰させ、出産育児の生理感と牢獄の硬質感とが全編で軋み合う。
"3000 Layla" メイ・マスリ / Mai Masri
『ラヤルの三千夜』アフタートークは、ゲスト・高橋真樹さん(ノンフィクションライター、著書『ぼくの村は壁で囲まれた パレスチナに生きる子どもたち』他)によるパレスチナ情勢概観。今よりも大らかな時代のピースボート企画「ガザ地区でホームステイ同時200名」参加体験など具体例面白す。
『エクスキューズ・マイ・フレンチ』
エジプト発コメディ映画。古代キリスト教の余韻を残すコプト教徒の上流家庭に育った少年が、父の急逝により公立学校へ転校する。ムスリム的空気のなかでもがく少年の成長譚がコミカルに描かれる一作。公教育の課題やコプトの地位など挟み込まれる小ネタも楽しい。
"La Moakhza" アムル・サラーマ / Amr Salama
『エクスキューズ・マイ・フレンチ』アフタートークは、勝畑冬実さん(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)による背景概説。コプト周縁、エジプト公教育、エジプト映画におけるイスラムxキリスト教の交接、タイトルや主題歌のアラビア語ニュアンスなど、要点別の解説が逐一明解いと面白う。
ところで『エクスキューズ・マイ・フレンチ』の字幕をチームで担当された勝畑冬実さん、実は"イスラーム映画祭2"上映作『敷物と掛布』も担当、というか勝畑さんがヨルダンで下町のDVD屋兄貴から勧められたのが機縁とか。『敷物~』はアラブの春騒乱時のコプト教徒住民区が舞台。
『敷物と掛布』 tweet: https://twitter.com/pherim/status/820596276798423040
『花嫁と角砂糖』
ペルシャ伝統文化の色彩をあらんばかりにつめ込んだ、煌めく宝石のような傑作。豊かな中庭をもち絨毯が敷き詰められたイランの伝統的邸宅を舞台に展開する、婚礼の手順のもとほのかに盛り上がっていく花嫁周辺の関係性や、哀悼から葬儀へ至る人間模様に心を奪われる。至上の眼福作。
"Yek Habbeh Qand" レザ・ミルキャリミ / Reza Mirkarimi
『遺灰の顔』
イラン・イラク戦争中のクルド人村。ムスリムとクリスチャンの二人の父親が、正体不明の遺体を巡り我が息子だと主張するコメディ。仲裁役に出るヤズディ教徒の翁が酒の造り手としても村で重宝がられる様子や、現ISに一部連なるフセイン政権軍の泥臭い実態など、枝葉描写も諸々興味深い。
"The Face of the Ash" シャフワーン・イドレス / Shakhwan Idrees
『遺灰の顔』 アフタートーク、ゲストは綿井健陽さん(映像作家)。話題はイラク内クルドの中心都市スレイマニヤでの映画祭参加報告。クルド指導者タラバニの訃報により映画祭が中断され、一同喪に服す模様など(写真→
https://twitter.com/pherim/status/975523426508009472)。バグダッド等と異なり、スレイマニヤは深夜の一人歩きも不自由ない治安の良さとか。
『トゥルー・ヌーン』
タジキスタン映画。ソ連崩壊により突如生まれた国境線に分断される村が舞台。地雷を重要モチーフとして国家を戯画的に描き、ミニマルに要素を切り詰める手法にボスニア内戦を描く名作『ノー・マンズ・ランド』が想起された。主人公であるロシア人測候所長の外部者視点も印象的。
"Qiyami roz" ノシール・サイードフ / Nosir Saidov
『ラジオのリクエスト』
紛争前のシリアが舞台。丘の上、大樹の木陰で1台のラジオを村の皆で聴き、踊る。週に一度のリクエスト番組でかかる曲に一喜一憂し、あるいは兵舎で故郷の恋人に想い焦がれる。クストリッツァやアンゲロプロスとの呼応すら感じさせる、環地中海映画の祝祭濃度に陶酔し通しの90分。
(画像→近日追記)
"Ma Yatlubuhu al-Musstamiun" アブドゥルラティフ・アブドゥルハミド / Abdellatif Abdelhamid
『ラジオのリクエスト』上映後は、国境なき医師団看護師の白川優子さんトーク。映画中のリクエスト番組は実在した人気ラジオ番組、監督はホムス出身で舞台はタルトゥース等々。地名とイメージ喚起の連関がこうして色濃くなる好循環。過酷な状況自体が国際的に無視されがちなイエメンの報告も貴重だった。
『ボクシング・フォー・フリーダム』
アフガニスタンからボクシングで五輪出場を目指す少女のドキュメンタリー。迫害のリスクに晒され、かつてタリバンにブルカ姿の女性が処刑されたその競技場で練習を続ける日々。彼女自身が撮影する、ムスリマの敬虔さを保ちながら友人とおしゃれし合う一幕に和む。
"Boxing for Freedom" シルビア・ベネガス、ホアン・アントニオ・モレノ / Silvia Venegas, Juan Antonio Moreno
『モーターラマ』
アフガニスタン、ヘラート、ブルカの強いる沈黙を語る女性。カーブル、腕を組みデモ行進する女性達。マザリシャリフ、雨の道を行きながら詩想を連ねる女性。幾度かリフレインする「毒を飲んで砂糖と思え」の言葉は印象的。詩人に自らを重ねる女性の、雨の道に込められた隠喩の深さ。
"Mohtarama" ディアナ・サケブ、マレク・シャフィイ / Diana Saqeb, Malek Shafi'i
『ボクシング・フォー・フリーダム』&『モーターラマ』トークは、アフガン滞在歴をもつ映画監督の古居みずえさんご登壇。女性の活力を巡る描写に隔世の感ありと。現地生え抜きの人間が撮る映像に対し、現地に通じた日本人の型が驚きを以って語る内容は面白いなと。西垣敬子さんの紹介も興味深かった。
『アブ、アダムの息子』
アラビア海を臨む南インドの村に暮らす老夫婦が、人生の締めくくりとしてメッカ巡礼を思い立つ。夫婦の質素な生活とケーララ州農村部の濃密な自然の描写が素晴らしく、良きムスリムびとの信心はこうした深さを湛えるのかと、佇まいの慎ましやかさに衝撃を覚える。静かな良作。
"Adaminte Makan Abu" サリーム・アフマド / Salim Ahamed
『アブ、アダムの息子』上映後トークセッションは、ボリウッドとも北インドとも異なるケーララ映画文化圏の姿影に触れるひととき。サリーム・アフマド(Salim Ahamed)監督+松下由美氏(通訳)+藤本高之氏(イスラーム映画祭3主催)の登壇。『別離』などイラン映画からの影響強いという話は新鮮かつ納得。
『私の舌は回らない』
クルド移民3世の若い女性監督が、ルーツを辿り母国ドイツからトルコ東部へ渡るドキュメンタリー。祖母がトルコ語以外の言葉を話す記憶から手繰り寄せられる、クルド語の孕む肩身の狭さ、アラウィー派ゆえ一層窮まる孤立感など日常の表面からは秘された襞の深さ豊かさに感じ入る。
(動画)→http://www.dailymotion.com/video/x1gninr
"Dilim Dönmuyor - Meine Zunge dreht sich nicht" セルピル・トゥルハン / Serpil Turhan
『私の舌は回らない』アフタートークはドイツ映画専門の渋谷哲也さん。監督&主演セルピル・トゥルハンの来し方を、彼女の師匠筋でニュー・ジャーマンシネマ巨匠のルドルフ・トーメや、彼女が十代の頃出演した『赤と青』などのトーマス・アルスラン監督まで遡り、2世の自我分裂を超える移民映画の今を素敵解説。
故郷で育まれた人格を伴って移民する1世に対し、移民2世は家庭と社会との狭間で独自の自己同一性の確立を迫られる。これを「2世の自我分裂」としたけれど、渋谷さんのお話は80's以降萌芽した"その先"の映像表現を巡るもの。「TOKYO KURDS/東京クルド」とのシビアな対照。
“TOKYO KURDS”: https://news.yahoo.co.jp/byline/hyugafumiari/20180326-000...
『イクロ クルアーンと星空』
インドネシア映画。天文台の望遠鏡を覗きたい少女に、天文学者の祖父が出した課題はクルアーンの朗誦だった。現代インドネシアにおける"イスラームと科学"を巡る諸相を背景に、子供の活力溢れる展開が楽しい一作。いじめっ子が朗誦に努める場面は成長譚の類型として新鮮。
"Iqro : Petualangan Meraih Bintang" イクバル・アルファジリ / Iqbal Alfajri
『イクロ クルアーンと星空』上映後トークは、主演二人のサプライズ登壇。前列を支配していたイスラーム学校のちびっこたちが「なんでいるのー!」「かわいい~」とおおはしゃぎ。子供ならではの質疑も楽しかった。バンドゥン工科大学附属のサルマンモスク製作という本作ならではの教育風景に触れた感。
(主演アイシャ・アミラ挨拶動画→https://twitter.com/pherim/status/980439249798381570)
『女房の夫を探して』
モロッコ映画。3度離婚した女と復縁するためには、女が別の男と一夜を供にしてのち別れなければ。という実在するイスラーム婚姻法の謎条項を起点としたドタバタコメディ。一夫多妻制の下での他の妻達の振る舞いも興味深く、「舟が出るぞぉ~」の結末で洩れる笑いは稀有のもの。
"À la recherche du mari de ma femme" ムハンマド・アブデッラハマーン・タージ / Mohamed Abderrahman Tazi
『女房の夫を探して』 上映後トークは、東大准教授・後藤絵美さんの《イスラーム婚姻制度》講義。クルアーン解釈を巡る地域偏差などが手際よく整理されたお話。一般に一夫多妻の根拠とされるクルアーンの箇所が、真逆の解釈のもと一夫多妻禁止が法制化されたチュニジアの事例ほか、諸々ほほぅ感満載。
『熱風』"Garm Hava"
'73年作。印パ分離後の移住騒ぎのなか、インド残留を選んだムスリム一家が味わう苦悩の日々。頑固一徹の父、真面目に働けば道は開けると信じる息子、時代の歩みに取り残される祖母など極上の物語に加え、舞台となる古都アーグラの使われかたが神業過ぎて形容しがたい不朽の名作。
"Garm Hava" M・S・サティユー / M.S.Sathyu
『熱風』上映後トークは麻田豊さん(インド・イスラーム研究)。'47年の印パ分離による1400万人の大移動と100万人の犠牲という背景と、この惨状を前面に出さず家庭内の描写に収斂させるM・S・サティユー監督の胆力。監督主演のGoogle社製秀逸動画も流され、当事者にはなお過去の話でないことを実感。
さて恒例の末尾余談、今回は[よみめも41]より関連書籍の転載をば。
■ 藤本高之 金子遊 編 『映画で旅するイスラーム』 論創社
《イスラーム映画祭3》開催に併せ刊行された、イスラームを背景とする映画70本の解説+野中葉・中町信孝他による関連コラム収録。金子遊著作は当よみめもでも過去幾度も扱ってきたし、初回・第2回のイスラーム映画祭上映作もおおむね収録されている点で、極私的嗜好とも親和性が高く読み応えあった。巻末の、収録作に関する日本での初上映ログも地味に貴重でありがたい。
おしまい。
#ふぃるめも記事一覧: https://goo.gl/NXz9zh
コメント
04月02日
23:19
1: pherim㌠
※「片影のイスラーム」イスラーム映画祭2紹介記事: http://tokinoma.pne.jp/diary/1953
※※「ふぃるめも53 敷物と蝶の月」:http://tokinoma.pne.jp/diary/1937
↑イスラーム映画祭2上映全作(東京)
※※※「繊月のイスラーム」イスラーム映画祭3開催前記事: http://tokinoma.pne.jp/diary/2742
※※※※「イスラーム映画の歩き方」イスラーム映画祭3企画者インタビュー: http://tokinoma.pne.jp/diary/2755