今回は、9月25日~26日の日本上映開始作をはじめ、第3回東京イラン映画祭上映作、若尾文子映画祭2020上映作などから10作品を扱います。(含短篇2作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第153弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■9月25日公開作
『アダムズ・ファミリー』
“いま不幸かい?”
“ええ、不幸すぎて怖いくらい”
と小気味良い会話で引っ張る安定の暗黒一家。
シャーリーズ・セロン、クロエ・モレッツら声優も嵌ってる。実写版が強烈過ぎて『ソーセージ・パーティー』監督作にしては手堅さ目立つも、製作決定済み続編にも期待できそう。
"The Addams Family" https://twitter.com/pherim/status/1308242487899598848
監督コンビと日本版声優について追記予定。
『ソーセージ・パーティー』: https://twitter.com/pherim/status/826055610714058752
『鵞鳥湖の夜』
水浴嬢(湖水行楽地の風俗嬢)をヒロインとする追跡物極東ノワール。暴力と搾取の昏い世界に暮らす若者たちを象徴する夜気とネオンの煌めきに陶酔、疾走しつつも激しく入れ替わる人物構図に眩暈する。前作『薄氷の殺人』の良種をまっすぐ育てた監督ディアオ・イーナン(刁亦男)、痺れる。
"南方車站的聚会" "The Wild Goose Lake" https://twitter.com/pherim/status/1265839448635277312
刁亦男
『鵞鳥湖の夜』グイ・ルンメイ(桂綸鎂)の寡黙で飾り気のない美貌は『薄氷の殺人』(↘図
https://twitter.com/pherim/status/1307617271292989440)から変わらず。同じく連続出演リャオ・ファン(廖凡)も安定の存在感。
一方新たな主演フー・ゴー(胡歌)の風貌が、吉田栄作と阿部寛を往還し続け眩暈の心地。あと珍しく原題より良い邦題。
ジャ・ジャンクー映画常連のリャオ・ファン(廖凡)に加え、ディアオ・イーナン監督も『帰れない二人』に出演しており、このあたりの人物関係やや惹かれる。
『薄氷の殺人』 https://twitter.com/pherim/status/637925385259249665
極東ノワール、中華ノワールなど過去ツイでも言ってるこの流れ、好きすぎてもっと観たい。例えば『迫り来る嵐』は、’97年の旧式工場という舞台の殺伐感に『鵞鳥湖の夜』と通底するものあり。世界が香港返還に湧き立つ中、廃れた工業町で人知れず進行する謎事件という明暗対照。
『迫り来る嵐』 https://twitter.com/pherim/status/1079382582481940480
中華ノワールつながりでシンガポール『幻土』も。シンガポール映画って、周辺の東南アジア映画に比べると妙にウェルメイドに仕上がってぬめりや湿り気、破れや荒削り感に欠けがちなのだけど、『幻土』は適度に混在してました。(「中華ノワール」or『殺人の記憶』なども含める「極東ノワール」で今後用語統一せんなどメモ)
『幻土』 https://twitter.com/pherim/status/1078637735408095233
言うまでもなく、この流れが好きすぎる心理的背景には自身もつ現代中国観の反映が感覚され。
『マティアス&マキシム』
友人の撮る映画のためキスした30歳男子ふたりが、互いを意識し始めもう止まらない恋路のゆくえ。
《感情の肉弾戦》たるグザヴィエ・ドラン節健在ながら、美しき婚約者あり海外転居ありの距離感演出に、過去にない種の繊細さも看取され。本人主演ゆえか温もりや痛みの直通体感がヤバい。
"Matthias & Maxime" https://twitter.com/pherim/status/1307932503785652224
“情愛の深さを物理衝撃で感覚させる異次元演出の極ゆくグザヴィエ・ドラン監督新作は、~”
ドラン前作『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』:https://twitter.com/pherim/status/1236501228214837249
グザヴィエ・ドラン作品は、俳優が声域競う感情の肉弾戦奏でる律動こそ本領という観を『Mommy/マミー 』『たかが世界の終わり 』まで持ったけれど、直近『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』『マティアス&マキシム』は深く潜り込むような旋律的心象も具わり天才31歳の成熟熱い。
(https://twitter.com/pherim/status/1244225657812353025)
『たかが世界の終わり 』:https://twitter.com/pherim/status/828467892534382592
■9月26日公開作
『イサドラの子どもたち』
イサドラ・ダンカンが遺したダンス譜《母》。記号が踊る譜面を見つめ、その源へと遡行を試みる若きダンサー。
あるダウン症少女の踊りから、ダンカンと同じく2人の子を失くした母が受け取るもの。
物語が進みゆく中で、表現の力の及ぼす識閾がぐんぐんと拡がりゆく稀有の体感。
"Les enfants d'Isadora" "Isadora's Children" https://twitter.com/pherim/status/1308730321358057472
試写メモ94:近日更新予定
■第3回東京イラン映画祭2020 byイラン文化センター @赤坂区民センター区民ホール
http://tokyo.icro.ir/index.aspx?siteid=417&fkeyid=&am...
『ペインティングプール』 (イラン/2013)
知的障害もつ若い父母、わが家の“ふつうでなさ”に苛立つ少年。
仲睦まじく子を愛してやまない夫妻が、子に反発され戸惑う姿の切なさ。集合住宅の暮らしから製薬会社での労働、息子のためのピザ作りまで描写の全てが愛おしい。母役は『花嫁と角砂糖』主演Negar Javaherian。
"The Painting Pool" https://twitter.com/pherim/status/1303159740277555200
『花嫁と角砂糖』: https://twitter.com/pherim/status/1080251120469962752
イスラーム映画祭5連ツイ:https://twitter.com/pherim/status/1308024457609375745
『こんなに遠く、こんなに近い』 (イラン/2004)
テヘランのエリート脳神経外科医が、星を観に砂漠へ旅立った息子を追うなかで、様々に未知の世界を知りゆくロードムービー。
恐ろしく詩的な構成により信仰/医学、伝統/近代、辺境/都市等の問題軸を映し切る技巧に、『花嫁と角砂糖』監督レザ・ミルキャリミの真髄思い知られ。
"So Close, So Far" https://twitter.com/pherim/status/1303563378586079234
『こんなに遠く、こんなに近い』で、都会者が人を探し内なる異文化へ分け入る辺りはジャファル・パナヒ『ある女優の不在』が想起される。未舗装路+高級車+携帯電話の組み合せ等。そこに現代的価値観とイラン実社会との生々しいねじれを見出すパナヒに比べ、本作はより寓話的。
ジャファル・パナヒ『ある女優の不在』:https://twitter.com/pherim/status/1200988434304626689
■国内劇場未公開作(含VOD公開/DVDスルー作)
『去年火車經過的時候』“Last Year When the Train Passed By”
列車窓から撮影した家々を1年後に訪れ、「あの日何をしてましたか」と尋ね歩く一篇。もちろん誰も正確には語れず、抒情に溢れる会話がいい。
監督は台湾出身フランス在住の黃邦銓/Huang Pang-Chuan。終盤突如襲い来る宇宙的情緒の拡散に驚かされる。
"L'AN DERNIER QUAND LE TRAIN PASSAIT" "去年火車經過的時候" https://twitter.com/pherim/status/1309644680754126848
“Retour”(Return, 回程列車 ’17)
年の瀬に長距離列車でパリからベルリン/モスクワ/モンゴル/厦門へと旅する、台湾出身在仏監督Huang Pang-Chuan/黃邦銓。
国共内戦を生きた祖父の来し方と古写真が挟み込まれる淡々とした語り口は、クリス・マルケルやジョナス・メカスが撮る旅映画の静謐を想わせる。
"Return" "回程列車"
■若尾文子映画祭2020上映作
http://cinemakadokawa.jp/ayako-2020/
増村保造監督作『刺青』『赤い天使』『青空娘』は下記にて↓:
https://tokinoma.pne.jp/diary/3712 (「ふぃるめも134 地獄娘と天使の涯て」)
https://twitter.com/pherim/status/1236149676899893248
『浮草』
旅回り一座の面々と、出生に秘密ある港町飯屋の息子との交接描く小津安二郎1959年作。
若尾文子祭の流れで観たけれど、中村鴈治郎(2代目)と京マチ子の対峙場面が小津らしからぬ一触触発の緊迫感漂わせ手に汗握る。とりわけ雨降りしきる路地挟む場面はもはや命の奪り合い級。ファムファタル若尾超然。
"Floating Weeds" https://twitter.com/pherim/status/1309324474794221568
『赤線地帯』
溝口健二遺作の深淵。吉原遊郭を舞台とする若尾文子や京マチ子らの瑞々しい競演と、売春禁止法の審議に象徴される風潮との全編に渡る衝突が凄まじい。女性雇用や嫁の家庭労働と、働くだけ稼ぎが入る娼婦との対置など社会風刺も極めて鋭い’56年作。黛敏郎の音楽に導かれたラストに慄える。
"Street of Shame" https://twitter.com/pherim/status/1253891063288229888
余談。
コロナ禍のもと始まったクリストファー・ノーランIMAX上映祭も、
大トリの『TENET』到来で最高潮の賑わいを見せてますね。
ノーランが意図したフル規格で観られる東京唯一のグランドシネマサンシャインなどは、連日ギッシリの満席状態。数ヶ月前とクラスター感染発生のリスクは大して変わらないはずなのだけど、良くも悪くも「空気」の国だなぁとあらためて。
とはいえグランドシネマのほうが自粛して、来週から平日は元の座席一つ空けへ。
ところでこのグランドシネマに端を発した、見世物小屋としての映画館をめぐる連ツイが、異様に長引きそうなのでご紹介。↓
https://twitter.com/pherim/status/1308178548801191937
ちょっとした現代映画体験考になりそうです。
おしまい。
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