今回は、イスラーム映画祭5上映全13作品+αを扱います。(含短編1作/再掲4作)
9月19日(土)~25日(金)、神戸・元町映画館にて開催。東京/名古屋とコロナ禍を突き抜け、ついにフィナーレへ。お近くのかたはぜひ。イスラーム映画祭過去回については、過去のふぃるめも&試写メモご参照あれ。
拙稿「イスラーム映画祭5主催者・藤本高之さんインタビュー」:
http://www.kirishin.com/2020/03/12/41844/
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第152弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしば黒字表記に含まれます)
■イスラーム映画祭5 東京2020/3/14-20 名古屋8/22-28 神戸9/19-25
http://islamicff.com/index.html
『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』
イスラーム開祖ムハンマドの事績描く大作’76。ハリウッド俳優版と同時に製作されながら幻の存在と化していたアラブ・キャスト版。聖遷を経たメッカ奪還までの攻防が軸で、多神教時代のカーバ神殿再現めっちゃ見入る。図像化禁忌のムハンマドへの視覚憑依に謎感動。
"الرسالة" "The Message" https://twitter.com/pherim/status/1239127421598613504
“『アル・リサーラ』のムハンマド視覚移入は図像化に相当しない”が端的な根拠になるかと。ただ「なぜお目をそらすのです!」と信徒が視界に居座ろうとする仕草などVR体験に近い新鮮さがあり、アラブ文学者の岡真理さんに立ち話で質問したところ「私も同じことを感じた」と。(続
ムハンマドの視覚簒奪との反感も誘いそうなほどにコントロール感伴う『アル・リサーラ』のこの演出に対しては、私見を言えばクルアーン井筒俊彦訳が“解釈”とみなされ許容されるのに近い感覚が働くのかなと。シーア派初代イマームのアリーなど、躍動する叉裂き剣に覇気宿る表現が滅茶カッコ良かった。
図→https://twitter.com/pherim/status/1239477909909196800
それで岡真理さんへ尋ねた主旨は、ムハンマドの偶像化よりも記号化寄りの、映画よりは文学へ傾くものだったけど、慌しい場に相応しいものではなかったし、『アル・リサーラ』上映後トーク登壇者の方が岡さんへ声をかけたのを機に身を引いた。お話を聞けて良かったです。感謝。
岡真理『アラブ、祈りとしての文学』(よみめも36):
http://cloudcity-ex.com/?m=pc&a=page_fh_diary&tar...
よみめも36:https://tokinoma.pne.jp/diary/2538
“私たちが書かない物語の運命がどうなってしまうか、あなた、分かっていて? それは敵のものになってしまうのよ。”
(イブラーヒーム・ナスラッラー「アーミナの縁結び」https://twitter.com/pherim/status/1239577422636273665)
『アル・リサーラ』トークはシリア人ジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさん。作品解説とムスタファ・アッカド監督の遍歴語る前半は絶妙な冗談で会場を沸かせ続け、アレッポの惨状語る後半は涙ぐみ言葉に詰まる一幕も。恐縮されていたが、具体言及伴うこの振幅こそ強烈な“メッセージ”を体現してた。
アッカド監督が爆弾テロに斃れたとの話に、岡真理さんの本を読む機縁となった演出家ガンナームの師匠カナファーニー爆死を想起。想起の場こそ大切と感じるゆえ、ナジーブさん激推し“シリア大空襲”参加投稿は、伊達男エドワード・サイード大写しにて。
https://facebook.com/syriasky/
『アル・リサーラ/ザ・メッセージ』に登場する多神教時代のカーバ(カアバ)神殿。周囲の地べたが覗けるこの構図、みた瞬間に心あたりがと感じたら、直近のコロナ報道だったという。
https://afpbb.com/articles/-/3271944
神殿内部の偶像が原始的でおどろおどろしく、いかにも邪教っぽい造形でちょっと笑いました。
『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』
南米に暮らすアラブ移民4世のグレイスが、家族を捨て故国で生涯を閉じた曽祖父の足跡をたどり南レバノンの小村へ。移民社会内のムスリム差別史、未知の血縁者たちの語る曽祖父の知られざる相貌、肉筆の手紙に込められた喚起力など挿話の全てが新鮮。
"Beirut - Buenos Aires - Beirut" https://twitter.com/pherim/status/1242042529962315778
『ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート』では、アルゼンチンのレバノン移民社会での多数派はクリスチャンだとの描写も。また本作から直に想起されるのが、ユダヤ移民1世のお翁さん自身が同じブエノスアイレスからポーランドへ旅立つ『家へ帰ろう』。大西洋両岸物語。
『家(うち)へ帰ろう』 https://twitter.com/pherim/status/1075960790056747009
『銃か落書きか』“Rifles or Graffiti”
モロッコ占領下の西サハラを、抵抗続けるサハラーウィ目線で撮る。予想外に密で包括的構成、スペイン/モーリタニアとの関係や難民とポリサリオ戦線、イスラエル直輸入の分離壁など情報整理の手際が秀逸。それにつけてもグラフィティxラップxスマホの∞戦闘力よ。
"Rifles or Graffiti" https://twitter.com/pherim/status/1243836461255774208
『銃か落書きか』上映後トークはアジアプレス岩崎有一さん。アルジェリアの砂漠上に広がるサハラーウィ難民キャンプの現状など、映画を補完&アップデートする講義。カナリア諸島リゾートのビーチが西サハラの砂で造成された話など、外地を狩場とする収奪構造のゲンキンさが戯画的に露出し印象深い。
このスレッドではイスラーム映画祭5の全上映作を扱います。5月神戸編は緊急事態を受け秋へ延期、名古屋編は現状予定通り4/25~開催の由。ここ数年、東京編初日から連ツイを始め、のんびり名古屋編前に終わらせるのが春の営みとなってました。というわけで連ツイ再開します。
『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』
実話ベースの少女受難物語。自身11歳で強制結婚させられた監督が放つ迫真性に圧倒される。また純正イエメン映画としては日本初公開の本作、田舎の部族因習と都市インテリ層の意識格差や儀式作法の描写など、極めて構築的に生活の諸相を見せる手際が全編眼福。
"Ana Nojoom Bent Alasherah Wamotalagah" "I am Nojoom, Age 10 and Divorced" https://twitter.com/pherim/status/1087904149738409984
『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』
監督の情念が隅々まで詰まるイエメン社会描写は唯一無二。田舎と都会の隔絶は戦後昭和日本の地方農民と旧華族とのそれを想わせ、丁稚奉公の少年視点で描かれるサウジとの力関係も出色。↓RT先ツリーにてイスラーム映画祭4全上映作ツイ。
拙稿『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』:
http://www.kirishin.com/2019/03/12/23889/
『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』
アレッポ空爆で家族を失った幼い姉妹の、隣人マリアムとの逃避行。
8歳の姉とマリアムとの心の距離を主軸に描かれる、トルコを通過しゆく難民模様の細部描写が見せる。EU行きボート乗船時マリアムの下す決断が、打ち込まれた楔のように鋭い余韻を残す。
"The Guest: Aleppo - Istanbul" "The Guest: Aleppo to Istanbul" https://twitter.com/pherim/status/1296780536816398336
『ガザ・サーフ・クラブ』
未来のみえない毎日、サーフィンだけが魂を自由にする。
汚染されゆくガザの海。青年はハワイ修行を夢みるもビザが下りない。少女は周りの目を恐れ、海へ出るのをやめていく。若者にサーフィンを教え続ける中年漁師のくたびれ切った目線。曇天なのに仄明るい、不思議な爽快作。
"Gaza Surf Club" https://twitter.com/pherim/status/1297021191459188737
本作でハワイ修行夢みてた青年Ibrahim N.Arafatのツイッター@ibrahim_nihad更新中。→
https://twitter.com/ibrahim_nihad
現在地表記をHouston,TXにしてるの、ちょっと気になるんですよね。
拙稿「疾走する魂と割れる社会」:http://www.kirishin.com/2020/09/02/45044/
失墜し分断されゆく世界の下、一枚のボードと向き合う若者たちを軸に、『mid90s ミッドナインティーズ』(ふぃるめも149) 『行き止まりの世界に生まれて』(ふぃるめも149) 『ガザ・サーフ・クラブ』をめぐり書きました。
『アブ、アダムの息子』
アラビア海を臨む南インドの村に暮らす老夫婦が、人生の締めくくりとしてメッカ巡礼を思い立つ。夫婦の質素な生活とケーララ州農村部の濃密な自然の描写が素晴らしく、良きムスリムびとの信心はこうした深さを湛えるのかと、佇まいの慎ましやかさに衝撃を覚える。静かな良作。
"Adaminte Makan Abu" Salim Ahamed https://twitter.com/pherim/status/976608719143297025
映画を観る営みは未知なる経験の獲得であり、感覚の変容伴う世界の更新であると同時に、想像もしない仕方で屹立する人格があり得ると教えてくれる。
『花嫁と角砂糖』を別格とした極私的イスラーム映画祭3隠れベスト作、今回リバイバル上映嬉しす。
初見時上映後トーク by サリーム・アフマド(Salim Ahamed)監督+松下由美氏(通訳)+藤本高之:
https://twitter.com/pherim/status/976624385644642304
『ラグレットの夏』
チュニジア、少女たちのひと夏の冒険。
ユダヤ教徒、クリスチャン、ムスリマの3人娘が楽しげにロストバージンを企む物語全体に、第3次中東戦争以前の失われた宗教文化混淆時代の明るい気風への哀愁が横溢する。エロ翁含め周辺人物も面白おかしい。アラブの春震源地の自由の記憶。
"Un été à La Goulette" "A Summer in La Goulette" https://twitter.com/pherim/status/1297540559884623877
『イクロ2 わたしの宇宙(そら)』
裏山の天文台から、舞台はインドネシア国立宇宙機関(LAPAN)やロンドンへ。人気俳優も続々出演し、少女アキラの成長と共に娯楽映画の正統進化を遂げてる感。
「人類最初の宇宙飛行士はムハンマド」の挿話が繰り返され、宇宙への憧れと並行展開する感覚はとても新鮮。
"Iqro My Universe" https://twitter.com/pherim/status/1297892590516228103
『イクロ クルアーンと星空』:https://twitter.com/pherim/status/980416907378532352
ヒロイン役トーク動画 撮影by pherim:https://twitter.com/pherim/status/980439249798381570
『花嫁と角砂糖』
ペルシャ伝統文化の色彩をあらんばかりにつめ込んだ、煌めく宝石のような傑作。豊かな中庭をもち絨毯が敷き詰められたイランの伝統的邸宅を舞台に展開する、婚礼の手順のもとほのかに盛り上がっていく花嫁周辺の関係性や、哀悼から葬儀へ至る人間模様に心を奪われる。至上の眼福作。
"یه حبه قند" "Yek Habbeh Qand" "A Cube of Sugar" Reza Mirkarimi https://twitter.com/pherim/status/976265014465110016
『花嫁と角砂糖』
映画を観る喜び、が宝箱のように詰まった一作。消費されて終わらない不朽の名作が、市場対応した配給ラインに乗らずとも個の手で運ばれてくることの幸福。
拙記事:http://kirishin.com/2018/03/31/11819/
ちな本作カメラマンのかたとは地味に相互フォローだったり。そういう薄い縁ってなんかいいです。意外にいい。
『花嫁と角砂糖』レザ・ミルキャリミ監督作『こんなに遠く、こんなに近い』:
https://twitter.com/pherim/status/1303563378586079234
『花嫁と角砂糖』主演Negar Javaherian出演作『ペインティングプール』 (2013):
https://twitter.com/pherim/status/1303159740277555200
『ハラール・ラブ (アンド・セックス)』
精力絶倫夫に疲れたアワーテフは2人目の妻を探し始める。念願の離婚を果たしたルブナーは、一時婚の慣習により意中の男との同棲を実現させる。
腐れ縁模様や安易に放逐される若妻など、イスラーム法と現代的価値観の狭間さまよう人々描く、レバノン発の快作。
"Halal Love (and Sex)" https://twitter.com/pherim/status/1307681278758498304
『私たちはどこに行くの?』
レバノン、砂漠の小村でムスリムとクリスチャンの男達が諍い合う。女達は対立の兆しを村から遠ざけようとする。だが燻る火種は容易く発火する。女達の下した笑撃的慈愛の決断。黒海対岸から舞い降りた白人美女集団が加わり、村は絢爛の一夜へ突入する。剣に滅ぶな男ども。
"Et maintenant on va où?" "Where do we go now?" https://twitter.com/pherim/status/821916781900009473
互いの殺戮に至る宗教対立というシリアスなテーマを、レバノンの重層的な歴史文脈をも取りこぼすことなくユーモラスに描き切る『私たちはどこに行くの?』。男は皆争い女は皆宥和を望む戯画的な構図が、開幕数分の群舞を最終的に昇華させる構成の絶妙。
『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキー監督。2011年の第2作『私たちはどこに行くの?』ではご自身の出演を知らずに観て、群舞中央で異様な存在感放つこの姐御何者!?って目が喰いつきっぱなしでした。『存在のない子供たち』でも少年を守る女性弁護士を好演、ガチ綺麗。
図→https://twitter.com/pherim/status/1154155392953249792
『存在のない子供たち』:https://twitter.com/pherim/status/1150969625154244608
拙稿ナディーン・ラバキー監督『存在のない子供たち』映画評 by pherim:
http://www.kirishin.com/2019/07/17/26949/
『神に誓って』
父の策謀で英国からパキスタンへ誘拐、僻村で強制結婚させられる従妹マリアム。
9.11後の米国でCIAの拷問受ける音楽家兄、狂信的宗教者に洗脳され音楽を捨てた弟。
禁忌めぐり“南アジアのカラマーゾフ”ばりに熾烈な宗教問答交わされ、極上の混淆音楽が響き渡るキレッキレの名作。
"In The Name of God" https://twitter.com/pherim/status/1307240572558532608
余談。今回上映作に色文字タイトルが多いのは、イスラーム映画祭各回からのベストセレクション再上映が試みられたからです。(計5作)
会場販売本と過去の関連本紹介。
藤本高之編『イスラーム映画祭 アーカイブ2015-2020』(よみめも60 第6項):
https://tokinoma.pne.jp/diary/3932
藤本高之+金子遊編『映画で旅するイスラーム』(「よみめも42 ゾンビの道徳」第9項):
https://tokinoma.pne.jp/diary/2870
《イスラーム映画祭3》開催に併せ刊行された、イスラームを背景とする映画70本の解説 野中葉・中町信孝他による関連コラム収録。金子遊著作は当よみめもでも過去幾度も扱ってきたし、初回・第2回のイスラーム映画祭上映作もおおむね収録されている点で、極私的嗜好とも親和性が高く読み応えあった。巻末の、収録作に関する日本での初上映ログも地味に貴重でありがたい。
『~アーカイブ』については他所orイスラーム映画祭6でも販売されそうな予感。(製作がコロナ前で部数に余裕が出そうな)
あとおまけ1作。
『カーキ色の記憶』
『ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール』上映後トークで山崎やよいさんが言及されていた作品で山形上映実績あり。アル・ジャジーラ配信の英字幕つき高画質youtube動画みつけたのでメモ。未見。
"ذاكرة باللون الخاكي" "A MEMORY IN KHAKI"
最後にもう一点。youtubeにある静かな名作『アブ、アダムの息子』の全編動画。これなぜかロシア語字幕のみついているのですが、しばらく前からyoutubeでは元々の翻訳字幕とは別に自動翻訳機能が付加されていて、つまりロシア語字幕からの自動翻訳日本語字幕で観られる状態に。
"Adaminte Makan Abu" Salim Ahamed https://twitter.com/pherim/status/976608719143297025
これ、精度が予想以上に高く驚きました。この動画自体は2012年に挙がっていて、こうした海外動画群はこれまで多くの人が言葉がわからないゆえに観るのを諦めてきたはずです。ありがちな日本側配給or翻訳者介入による妙な語尾遣いなども皆無のため、今後はこちらのほうが良いケースさえ出てきそうです。
英語字幕がわかれば欧州&南北アメリカ&アフリカ映画の多くは(少なくとも辞書的な意味で)かなり正確な翻訳が期待できるため、すでにあるネット上資産の活用ルートとして、これはなかなか壮大な鉱脈が再探掘されつつあるなと。
おしまい。
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