今回は、第34回東京国際映画祭 コンペティション部門の続きと、ガラ・セレクション部門、ユース部門、Nippon Cinema Now部門から13作品を扱います。(含再掲6作/近回にてドラマ1シーズン1作カウント連打で調整予定)
第34回東京国際映画祭《1》(ふぃるめも198) https://tokinoma.pne.jp/diary/4390
※来週末から始まる第35回東京国際映画祭ではなく、去年分。
去年に続き、いつか更新しようと後回すうち一年たっちゃったシリーズ再来。(涙)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第240弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■コンペティション部門2 (同部門他作は1=ふぃるめも198にて)
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『母の聖戦』(市民/La Civil)
娘を誘拐された母が、軍を巻き込み犯罪組織の深層に迫るクライム劇。
『息子の面影』と同じメキシコ舞台ながら、81年生まれ監督テオドラ・アナ・ミハイはチャウシェスク政権下のルーマニアからベルギーへ亡命した異色経歴でドキュメンタリー調が魅せる。ダルデンヌ/ムンジウらが製作に居並ぶ肝煎りの質実。
世界を圧倒する母の執念。
"La Civil" https://twitter.com/pherim/status/1606855330092429312
メキシコの母描く近作:
『息子の面影』“Sin Señas Particulares”https://twitter.com/pherim/status/1453725858095534098
『もうひとりのトム』“El otro Tom”https://twitter.com/pherim/status/1461170429150695430
『箱』 “La Caja” https://twitter.com/pherim/status/1508640528694341633
※2023年1月日本公開予定。
『一人と四人』
豪雪下の山小屋を舞台とする騙し合いと生存への格闘。
実直にチベット版ヘイトフル・エイトが目指されており、羅生門的かけ合いが奥行きを深める。
『羊飼いと風船』のJinpa主演&Pema Tseden製作。こうした遊びの大きいウェルメイド娯楽作がTibet圏から出てくるのは素朴に嬉しい。
"一个和四个" "One and Four" https://twitter.com/pherim/status/1602862048547065856
『ヘイトフル・エイト』https://twitter.com/pherim/status/1602862025671323648
『羊飼いと風船』https://twitter.com/pherim/status/1353544132233285633
ちな『一人と四人』“一个和四个/One and Four”の監督ジグメ・ティンレー(久美成列/Jigme Trinley)は、ペマ・ツェテン(པད་མ་ཚེ་བརྟན།/万玛才旦)の息子。
2021年の本作が初長編で、2022年にはオムニバス“大世界扭蛋机”参加(“新生”)。この短編集、贾樟柯/ジャ・ジャンクーの主演作(!)とかあって凄そう。
『ある詩人』“AKYN”
19世紀のカザフ詩人マハンベトに託される、いまこの瞬間にも滅びゆく言語の逐一が宿す無数の風景、時間の厚み。
現代の諸相を詩のコードへ還元したかのような構成に驚かされる。そこでは列車の走行音、スマホ販売員の売り文句までもが詩の韻律を形成する。オミルバエフ充実新作。
"Akyn" "Poet" https://twitter.com/pherim/status/1457501599312408577
『三度目の、正直』
子を失くした女性が、記憶喪失の青年にわが子の面影を重ねる。音もなく泡立ちだす日常のもろさ危うさ。
穏やかに暮らす人々が平凡さの底で抱える生々しい狂気への、鋭き直視。監督・野原位の脚本担当作『ハッピーアワー』の時間感覚再び。同作で好演した川村りら主演&脚本参加。
"Third Time Lucky" https://twitter.com/pherim/status/1484357831327649795
『ハッピーアワー』 https://twitter.com/pherim/status/870658555543670784
『ヴェラは海の夢を見る』
夫の自殺後、家がギャンブル負債の抵当に入っていたことを知ったヴェラによる現状打破。
それは抑圧されたヴェラ世代の女性と小国コソボによる世界への反逆であり、内面の静謐描写と殺伐外社会の対照が凄まじい。
コソボ人監督カルトリナ・クラスニチ圧巻のデビュー作。
"Vera Andrron Detin" "Vera Dreams of the Sea" https://twitter.com/pherim/status/1506120347036258304
マケドニア映画『柳』“Willow” https://twitter.com/pherim/status/1502856971292012544
■ユース部門
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『牛』
牛すぎる。
かつて牛のチラ見に反応するカメラワークがあったろうか。こんなにも牛の声を微細に聴きわけ、牛とガチに見つめ合う試みが。
畜産テーマの良作が当然のように具えてきた、食や屠殺への問題提起という方向性自体の対象化というスタイルさえも捻り散らす、オマージュENDの明証性。
"Cow" https://twitter.com/pherim/status/1454791119078715393
■ガラ・セレクション部門
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『GENSAN PUNCH 義足のボクサー』
義足ゆえ日本ではプロライセンスが降りない沖縄のボクサーが、フィリピンでプロを目指す日々。汗と熱気みなぎる褐色の男の裸を撮ったら世界一なブリランテ・メンドーサにしては、軽くつるっとした画作りが意外で新鮮。主演尚玄の背中で魅せる気迫や佳し。
"Gensan Punch" https://twitter.com/pherim/status/1507186199957450772
拙稿:主演・尚玄インタビュー「ジェンサンの風」http://www.kirishin.com/2022/05/26/54440/
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
珠玉の眼福作。
『グランド・ブダペスト・ホテル』の箱庭を、幻都パリへ領域展開しきった緻密なディティールのひとつひとつに見惚れる。
大作10本分の作り込み&絢爛の出演陣を結晶させた特濃度、精巧すぎる神構成を一切邪魔しないストーリーラインの単純さ。極の上。
"The French Dispatch" "The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun" https://twitter.com/pherim/status/1493056236232736770
『グランド・ブダペスト・ホテル』 https://twitter.com/pherim/status/481229088154071040
『犬ヶ島』 https://twitter.com/pherim/status/999979009931792384
『リンボ』(Limbo,智齒)
香港の廃墟スラムに猟奇殺人犯を追う刑事二人。
九龍城ばりの辺獄時空、絡みつく湿り気と腐りゆく汚物の臭気、偏在する死の気配。
闇中より謎の日本人が睥睨する。薄白く降り注ぐ雨滴、どす黒く地を這う血液。刑事の瞋恚、少女の悔悛。時の堆積、凍える魂、叫ぶ傷痕、香港。
"智齒" "Limbo" https://twitter.com/pherim/status/1456063390204383236
“ 文化研究者の李鷗梵も、1984年~1997年の香港人について、「古い主人と新しい主人の両者による政治的策略のために、リンボのなかに閉じ込められてしまっていた」と表現している。リンボ(辺獄)の果てで自分たちを待っているのは「地獄」なのではないか――”
(川田耕『愛の映画』大隅書店 2011)
拙稿「香港の心のゆくえ」http://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/
『ラストナイト・イン・ソーホー』
ロンドンへ上京しファッションを学ぶ主人公を、夜ごと襲う’60sソーホーの夢。そこで彼女は歌手志望の奔放な女性となるのだが。
アニャ・テイラー=ジョイとトーマシン・マッケンジーの鮮やかな対照に、昔日の絢爛と現代の逼塞を重ね情念の呻きを絡める巧緻の極み。
"Last Night In Soho" https://twitter.com/pherim/status/1467696241517928448
『チュルリ』
覆面刑事が山奥の茶屋にたどり着く冒頭から、次何が起こるか予測不能の奇天烈120分。
映画大国インドの中でも、独創性が光る南部ケララ州マラヤーラム語映画をヤバさで牽引する監督ペッリシェーリの粋。前作『ジャッリカットゥ 牛の怒り』のカルト的炸裂時空を全方位拡張する面白さ。
"ചുരുളി" "Churuli"
『MEMORIA メモリア』
ティルダ・スウィントンが耳をそばだてる。
音に体をくねらせ、忘我する。
存在しない音響技師、太古の少女の骨、
信仰を勧める精神科医、森で彼女の訪れを待つ男。
アピチャッポン初のタイ国外作は、コロンビア首都から密林へ潜りゆく。底なしの余韻に、私の空虚が共振する。
"Memoria" https://twitter.com/pherim/status/1491968334459404289
『MEMORIA メモリア』を巡り書きました。
アピチャッポンと“タイ”、イサーンとコロンビア
密林の記憶(メモリア)と記念像(メモリアル)
ティルダ・スウィントンの閾
幽霊/トンネル/宇宙船
劇レアな角度を攻めた文章かと。ぜひ。
拙稿「明滅するリアル」http://www.kirishin.com/2022/03/04/53173/
■Nippon Cinema Now 部門
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&...
『空白』
憎しみの鬼と化す漁師役・古田新太が凄まじい。
万引き未遂の女子中学生が、スーパーの店長に追われ交通事故死する。店長や学校、娘を轢いた運転手や報道陣へ全方位で感情の肉弾戦を仕掛ける不器用な父親に、ある瞬間訪れる変化の兆し。この一瞬へ、全編・全ベクトルが集約される構成の妙。
"Intolerance" https://twitter.com/pherim/status/1437246594370314244
古田新太の暴走に他の役者はひたすら受け身の演技を強いられるなか、まったく別の意志によって主人公を浮上へ導く藤原季節。
伊東蒼独特の存在感と、『湯を沸かすほどの熱い愛』からの成長。など追記予定。
『湯を沸かすほどの熱い愛』 https://twitter.com/pherim/status/865430850002763776
このあと少女は放課後に母親と造花を同じ丁寧さで作り続ける。それで何が悪いんだろう。こういう生徒が1人いることは、この学年全体にとって恩寵じゃないか。という話。など追記するかもー。
余談。
銀座のプレス/インダストリー会場は、2階席が基本審査員のため開けられていて、1階席から見上げるとほぼ中央に審査委員長イザベル・ユペール様がよく座ってらして、ちょっとした身のこなしでもオーラ発してるなぁと。
おしまい。
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