今回は、1月17日の日本上映開始作など11作品を扱います。(含再掲1作)
タイ移住後に始めた、劇場/試写室で観た映画をめぐるツイート
[https://twitter.com/pherim]まとめの第346弾です。
強烈オススメは緑、
超絶オススメは青で太字強調しています。
(2020年春よりドラマ含むネット配信作扱い開始。黒太字≠No Good。エッジの利いた作品や極私的ベストはしばしばタイトル黒太字表記です。)
■1月17日公開作
『サンセット・サンライズ』
釣り吉エリート社員が、コロナ禍に怯える三陸の町へ内緒で引っ越し巻き起こすひと騒動。
菅田将暉と井上真央の温度差パない距離感描写が瑞々しく笑わせ泣かす。
東日本大震災の傷と直に向き合い、濃厚エンタメ作へ仕上げる流石の岸善幸監督(正欲)+宮藤官九郎脚本作。
"" https://x.com/pherim/status/1878651771444437207
『正欲』https://x.com/pherim/status/1716974214086013364
『今日の海が何色でも』
タイ南部ソンクラーを訪れた美術作家と、現地ムスリム女性の交わす淡い慕情。
崩れだした砂浜が、手を加えるほどいびつになる様と、自然な心の接近を阻む因習とを重ねる終盤描写がガチ良い分、中盤のダレる会話が惜しい。
アノーチャ想わせる哲学的昇華演出すばらしい。
"ทะเลของฉัน มีคลื่นเล็กน้อยถึงปานกลาง/Solids by the Seashore" https://x.com/pherim/status/1876835545583611934
『暗くなるまでには』(ดาวคะนอง) https://x.com/pherim/status/1089312170582564864
沖縄/タイ深南部オンライン映画祭 連ツイ https://x.com/pherim/status/1312201611037483010
『アンデッド/愛しき者の不在』
死んだ愛する者らが、墓地から半腐乱で還って来る。
米国なら大波乱劇となる事態もそこは“ぼくのエリ”と“ボーダー”と同じ脚本家による北欧ホラー、静かに淡々と状況を受け止める人々が心に沁みる。
“わたしは最悪”の主演男女らが困惑、悲嘆、諦念の諸相を好演。
"Håndtering av udøde/Handling the Undead" https://x.com/pherim/status/1878425355092213854
『わたしは最悪。』https://x.com/pherim/status/1542346409625604097
『イノセンツ』https://x.com/pherim/status/1683797149182754816
『テルマ』https://x.com/pherim/status/1053151648250359808
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』“九龙城寨之围城”
香港アクション、久々の大傑作!!
哀愁、覚悟、人情、跳躍。
破壊前夜の九龍城徹底再現が縦方向の殺陣と連動、サモ・ハンら往年名優による前代未聞の立体乱舞炸裂。
香港映画通たちのザワつきを感じてはいたけど、Limboの鄭保瑞新作とは不覚。
"九龙城寨之围城/Twilight of the Warriors: Walled In" https://x.com/pherim/status/1876238975570186359
『リンボ』(Limbo,智齒) https://x.com/pherim/status/1456063390204383236
拙稿「香港の心のゆくえ『我が心の香港』『理大囲城』『リンボ』他」https://www.kirishin.com/2021/11/06/51385/
九龍城砦連ツイ https://x.com/pherim/status/856144683155599360
『ストップモーション』
衰えゆく天才ストップモーション作家を母にもち、創作への苦悩抱える娘の暗夜行路。
奔放な幼女に導かれ、人形が一つ目キュプクロスから歪な蝋少女へ変わり、生肉で肉付け始め次第に極まる虚実不覚の深淵底なし沼。内面エグる恐怖表現が半端ない。
"Stopmotion" https://x.com/pherim/status/1877196226929573915
『オオカミの家』https://x.com/pherim/status/1692764713392980417
『骨』“Los Huesos” https://x.com/pherim/status/1693814529325731943
『マッドゴッド』https://x.com/pherim/status/1598284304244953088
『ゴッズ・クリーチャー』“God's Creatures” https://x.com/pherim/status/1743778623004590438
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
ある青年が、悪辣弁護士と組み怪物トランプへ進化を遂げるまで。
トランプタワー建設巡るあこぎさなど諸々興味深く、狂った政財界を生き延びる“裏技”の数々に熟達した必然として今ある過激さを浮かび上がらせる、アリ・アッバシ監督の胆力に唸る。
"The Apprentice" https://x.com/pherim/status/1877321599856128351
『聖地には蜘蛛が巣を張る』“Holy Spider” https://x.com/pherim/status/1645620813641682944
『マザーズ』https://x.com/pherim/status/1499223885211844609
『メディア王~華麗なる一族』連ツイ https://x.com/pherim/status/1830429511529447712
『君の忘れ方』
大切な存在を失った人々が行き着くグリーフ・ケア。わかち合う試みと、わかり合えなさの深い断絶。
冷たさと怒りで硬直する男を坂東龍汰が、為す術なく彼を見つめる幻影を西野七瀬が好演する。ケアグループを温かくまとめる津⽥寛治、ぶっきらぼうさが鮮烈な円井わんなど見処多々。
"" https://x.com/pherim/status/1879134508462796853
『ALIVEHOON アライブフーン』https://x.com/pherim/status/1886601506708971778
『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』https://x.com/pherim/status/1581838290562740225
『泣けない男たち』https://x.com/pherim/status/1506875812259139588
『ディックス‼ ザ・ミュージカル』Dicks: The Musical
A24初の歌劇映画が過激すぎ。
ゲイの双子によるお下劣過剰と皮肉過剰、ポリコレで窮屈すぎる昨今、良識人のドン引きを恐れない姿勢が清々しい。アンチモラルが飽和してなお全方向へ突き破る終盤凄い。
ちんこす、くらいには邦題も突き抜けて良かったかな。
"Dicks: The Musical" https://x.com/pherim/status/1879838756624302405
『インスペクション ここで生きる』https://x.com/pherim/status/1686949195700416513
『ソーセージ・パーティー』https://x.com/pherim/status/1272030733645737984
『アーサーズ・ウィスキー』Arthur's Whisky
亡夫の遺した発明品が、一定時間だけ若返るウィスキーだった。
人生何周目よっていうドラァグクイーンとの出逢いや、ほっこり百合展開など諸々アツい、ダイアン・キートンら女3人によるラスベガス痛飲紀行。昔の夢が一つ一つ成仏しゆく様は泣かせる。
"Arthur's Whisky" https://x.com/pherim/status/1878790110130622692
『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』https://x.com/pherim/status/1769705600076620121
『アル中女の肖像』1979 https://x.com/pherim/status/1691463421039095808
『アナザーラウンド』https://x.com/pherim/status/1429433683530838023
『敵』
引退した仏文学者の、妻に先立たれた質実おひとり様暮らしへ兆す、艶やかな予感と不穏な呼び声。
筒井康隆原作のモノクローム翻案が活きまくり、吉田大八監督作は三島由紀夫『美しい星』同様、文学が絡むと更に飛躍するんだなと。長塚京三/河合優実らみな出色演技。
"Teki Cometh" https://x.com/pherim/status/1854137471094960270
『美しい星』https://x.com/pherim/status/861960664968904705
『騙し絵の牙』https://x.com/pherim/status/1375646867715813379
■《ヴィジョン・オブ・マフマルバフ》関連上映12月26日
http://vision-of-makhmalbaf.com/
『川との対話』“Talking with Rivers”
川を介し“イラン”と“アフガニスタン”が語る。
歴史と米ソの侵攻を語るイラン役をモフセン監督本人が務め、マフマルバフ一家の過去作群を重ねつつ、亡命先のテムズ川を背景に据えることでより鮮明に浮かびあがる寓話の今日性。
"Talking with Rivers" https://x.com/pherim/status/1872605287116657023
マフマルバフ連ツイ『パンと植木鉢』他 https://x.com/pherim/status/1622796987174371328
『独裁者と小さな孫』https://x.com/pherim/status/686833749376413696
『私が女になった日』https://x.com/pherim/status/1782588013798961339
拙稿「マフマルバフ監督インタビュー イラン映画の詩性と、亡命後の映画製作をめぐって」
https://www.kirishin.com/2025/01/09/71047/
余談。
気づいたら0時を回っている日々のくり返しで、思うようにタスクが回らないのだけれどそれはそれで悪くない。回らないほうに割り振られているのはつまり、ほんとうはしたいけれどできないことたちで、以前ならそれは全面的に残念なことでもあったけれど、そこには「したいことはすべてできる人生があり得る」という前提があり、それは要するに幼児的な全能感の延長でしかない。その幼児性の内では「したいけれどできないこと」は虚数で実態をもたないが、実人生においてそれらは明確に像を結ぶ。この自分の輪郭はそのようにしてのみ、引かれ得る。輪郭を自ら引けるという思い込みほど愚かな思考もないけれど、理知的な自己認識をあからさまに披瀝する人間ほど、こうした間域をめぐる思考が驚くほど未熟に映るのは彼らに非があるというよりも、この社会自体が幼児的だからだろう。泥舟を選んだ責任からさえ逃げる一点を除くなら、それで良い人間たちはきっとそれで良いのだろう。
67歳のモフセン・マフマルバフへのインタビュー原稿を仕上げていて、彼こそが「人間」だよなとあらためて感じ入る。投獄され、爆撃の下で映画を撮り、亡命し、命を狙われながら脚本を書く。イラン映画における詩性について語る眼差しに感覚する熱は「人間」そのものだ。欲望の奴隷でしかない行動律と自動プログラムのような理屈しか持たず能面を被ったゾンビばかりが人格者を気どり、その場しのぎの妄言を嘯く中で窒息せずにいられるのは、こんな肥溜めでも息していさえすればごく稀に、あなたのような人間に出会えるからだ。それだけでもじゅうぶんこの日々は生きるに値するのだし、だからできないことの総体は実態をもつ実数として積み上がる。キアロスタミとは話せなかったが、マフマルバフとは話せた。胡波とは会えなかったが、한강に会える日は来るかもしれない。いったいそれで何の不足があるというのか。
おしまい。
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