・メモは十冊ごと
・通読した本のみ扱う
・再読だいじ
※コミックは別腹にて。書評とか推薦でなく、バンコク移住後に始めた読書メモ置き場です。雑誌は特集記事通読のみで扱う場合あり(74より)。たまに部分読みや資料目的など非通読本の引用メモを番外で扱います。青灰字は主に引用部、末尾数字は引用元ページ数、()は(略)の意。
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1. ヤマシタトモコ 『違国日記』 11 祥伝社
夜明けよ
あなたは
いつかわたしより
ずっと頑丈な
舟をつくる
そして漕ぎ出す
風を懸命に帆にはらんで
その床板は
釘は
へりの小さなささくれは
わたしたちが
戦い築いたあかしだろう
わたしたちと
もっとずっと前の
わたしたちだったもの
いつかあなたたちになるもの
わたしたちは
舟をつくる
そして漕ぎ出す
夜明けよ
あなたはわたしたちよりも
ずっと頑丈でどこまでも
泳ぐ舟をつくる
わたしはあなたの
舟を押して
岸に残る者になろう
わたしはあなたの
錨となって海に沈もう
波を切り裂く舳先となろう
あなたがいつかすっかり
忘れて構わないものになろう
あなたの見るその黎明は
わたしたち 皆が見るのだから
だから夜明けよ
あなたがどうか
ただ訪れ
ただ新しく
ただいつでも
そこにありますように
2. マルティン・ハイデッガー 『芸術作品の根源』 関口浩訳 平凡社
アルブレヒト・デューラーは、あの有名な言葉を述べている。「というのも、本当のところ芸術は自然の内に潜んでいるのだから、それを引き裂いて(reißen)取り出すことのできる人が芸術を獲得するのである」。引き裂くとは、ここでは亀裂(Riß)を取り出すことであり、烏口〔引き裂くペン〕を用いて製図板〔引き裂きの板〕の上に線〔見取り図〕を引く〔引き裂く〕ことである。 115
ものすごくバカっぽいことを書くけれど、ハイデガーの単著は『存在と時間』を一応は通読したことがあるだけで、しかも内容はほぼ記憶になくて理解していたはずもなく、二十歳すぎのころ付き合っていた恋人が20分くらいとても丁寧に口でしてくれているあいだ『存在と時間』を読んでいたという、どうみてもクズな身体記憶だけがある。なんか、そういうことをとても軽薄に、そのとき思いついてしまったからして(もらって)みたというやつで、一度きりに限るなら本当に幅広くいろんなことを試したうちのひとつとしてそれはある。セックスと哲学書、みたいな。どっちもファッションだったといえば服飾業界のみなさんにこれまた失礼な文言にもなるけれど、ゆえに当時の自分としてもハイデガーである必要とかまったくなかったはずである。
それで今回は『技術への問い』への助走みたいなものとして「技術とは何だろうか」という講演録が邦訳されているのを知り、さらにその助走として本著がよろしく思えたというのもあって読み出して、遠い『存在と時間』の記憶に比べ何のひっかかりも難解さも感覚されず読み終えたのがまず意外。まぁ、とはいえ「芸術」だからな。なんのかんのハイデガーを経由した言葉たちを無意識のうち大量に浴びてきたからなんだろう。
世界と大地の相互対立は闘争(Streit)である。()本質の自己主張はけっして何らかの偶然的な状態に固執することではなく、固有な存在の由来の伏蔵された根源性に自己を引き渡すことなのである。闘争においては、あらゆるものが自己を超えて他なるものを担う。このようにして、闘争は、ますます闘争的に、ますます本来的に、闘争がまさにそれにほかならないものになる。闘争がいっそう厳しく自己を自立的に過剰に駆り立てれば駆り立てるほど、闘争し合うものたちはたがいを単純な相互属の親密さ(Innigkeit)へと、いっそう頑固に解放する。大地それ自体が、大地として、その自己閉鎖の解放された押し迫りの内で出現すべきならば、大地は世界という開けたところを欠かすことはできない。世界が、一切の本質的宿命の支配的な広さと軌道としてそれ自体を或る決定的なものの上に基づけるべきならば、世界もまた大地を逃れて漂うことはできない。
作品が一つの世界を開けて立て、大地をこちらへと立てるからには、作品とはこの闘争を惹起するものである。しかし、このことが生起するのは、作品が闘争を退屈な一致のうちに鎮静化し、同時に調停することによってではなく、闘争が闘争であり続けることによる。なんらかの世界を開けて立て、そして大地をこちらへと立てつつ、作品はこの闘争を遂行する。作品の作品存在は、世界と大地との間の闘争を闘わせること〔Bestreitung〕にある。闘争は〔闘い合うものたちの〕親密さという単純なものにおいてその絶頂に至るのだから、闘争を闘わせることによって生起するのは作品の統一である。闘争を闘わせることは、つねにそれ自体を過剰に駆り立てながら、作品の動性を収集することである。したがって、それ自体の内に安らう作品の安らいは、その本質を闘争の親密さの内にもつのである。
われわれは、作品において何が活動しているかを、作品のこの安らいからはじめて看取できる。これまでのところ、〈芸術作品において真理が作品の内へと据えられる〉ということは、依然として先取りした主張にとどまっていた。作品の作品存在において、真理はどのように生起するのか。 74-6
新鮮というか、意外なことに、その「芸術」の定義上も時間が重要項になってくるらしい。というかスタティックな、辞書的な「芸術」の意味とかほぼ度外視されていて、ミケランジェロが石のうちにみたアレを、無時間的な芸術把握として捉えるような。ミケランジェロとか言及一切ないし、この喩えもこれはこれでズレまくってる気しかしないけど、意思や行為によって「芸術」が立ち上がるのではなく、「芸術」という意思があるんだ、みたいなやつ。
世界から意思が引き剥がすそれは初めから在るのだけれど、あまりにも在りすぎてかえって見えないということはあり、行為がそれをカタチにする。いやいま睡眠不足で映画三本観てきたあとビール呑んで魚たべた頭で書いてるこれはたわごとに過ぎなくて、ハイデガーがこの本でこういうことを言っているその要約なのかと聞かれたら全然ちゃう、ちゃうちゃうちゃうんちゃう。根源だからな、もっとこうどろりと混濁してハマると抜け出せない足首おも、のような領域で浮遊する真理。昔は著者の考えが知りたくて、その思想を理解したくて本を読んだものだけれど、いまやわかっていることしかもうわかる気がしない。答えはたんにそこにあり、答えのために為されるものが問いではない。
芸術は真理を発源〔entspringen〕させる。芸術は樹立しつつ見守ることとして作品のなかで存在者の真理を跳び出させる〔erspringen〕。何かを跳び出させること、本質の由来から樹立しつつ跳躍すること〔Sprung〕によって存在へともたらすこと、このことこそが根源〔Ursprung〕という語の意味するところである。
芸術作品の根源、すなわち同時に、或る民族の歴史的現存在を意味する、創作し見守る者たちの根源は、芸術なのである。そうであるのは、芸術がその本質において根源だから、つまり真理が存在するようになり、歴史的になる或る卓越した在り方だからである。
われわれは芸術の本質を問うている。われわれはなぜそのように問うのか。われわれが問うのは、次のような問いをいっそう本来的に問えるようになるためである。すなわち、芸術はわれわれの歴史的な現存在の根源であるのか、否か。芸術はそのようにありうるのか、そうあらねばならないのか、もしそうならどのような条件のもとでなのか。
そのような省察は、芸術とその生成とを強制することはできない。しかし、この省察による知は、芸術の生成にとって先駆的にして、それゆえ不可避的な準備なのである。ただそのような知のみが、作品に空間を、創作者に道を、見守る者に立場を用意するのである。 128-9
こういう書き口は「品がない」と受けとられ、なんなら露悪的だのダサいだの言われたりもするのだけれど、わろてまう。
あれはとても良い時間だった。その良さをここは表現する場でもないけれど、リアルはつねにリアルにあるのであって、口先で裁けるうわべに依りかかった言語表現とか幼いだけか、無なんだよ。
3. クリスチャン・ザイデル 『女装して、一年間暮らしてみました』 長谷川圭訳 サンマーク出版
はき慣れないハイヒールが足から滑り落ちないように、かかとの革ひもをきつく締めつける。すると、どうだ。まだ何かにつかまらないと立ってもいられないのに、少しずつ、ほんの少しずつ、解放感のようなものが広がっていく。初めてストッキングに足を通したときも、同じような気持ちになった。目に見えない監獄の鉄格子の隙間から手足を外に伸ばすと、それまで感じたことのない自由が広がっていた、そんな感じだ。
ハイヒールの先の隙間から顔をのぞかせるつま先に目を落とした。やるべきことがまだたくさん残っていることがわかった。まずはペディキュア。それに両手の爪にも色が必要だ。真っ赤にしてやる!
深呼吸をしてから、僕はエリカを見つめた。彼女は励ますようにうなずいている。
ゆっくりとつかまった手を離す。生まれて初めて一ーセンチの空中に立つ。ハイヒールをはいて。鏡には、竹馬のように細い脚が映っている。「ハイヒールをはいていると、まるで空を飛んでいるような気になるの」昔つきあった女性が言っていた。最初の一歩を踏もうとしたとき、僕にもその気持ちが理解できた。でも、革ひもが悪いのか、足を完全に浮かせることができない。つま先がすごく痛い。それなのに、一歩ごとに世界が明るくなっていくような気がする。何かが大きく変化した、と僕は気づいた。
実際のところ、僕がやっていることはバカバカしい。バカバカしいけれど、ごく普通のことでもある。
突然、足の小指に鋭い痛みが走った。唯一、靴先の隙間から外に出ていない指だ。
「ダメ、無理!」ソファに腰を落としながら、僕は叫んだ。そしてつま先に手を伸ばす。
「がんばれ、クリスチアーネ!女は誰もが経験することよ。そんな痛み、すぐに慣れるわ!」
僕はびっくりした。座っていなかったら、足をくじいていただろう。エリカは今、僕をックリスチアーネ"と呼んだ。 僕の名はクリスチャンだ。クリスチアーネなんて女の名は口にしたことがない。
「女はみんなマゾなのか?こんなの我慢できるなんて」呼び名のことには触れず、僕はため息をついた。
「さあ、どうかしら。あなたも女になれば、わかるんじゃない?」
鏡に映るハイヒール、僕の足にとてもよくマッチしている。はいているだけで、脚が数メートル長くなったように見える。足を痛めずにこの靴をはく秘密、女性なら誰もが知っているトリックがあるはずだ。僕は自宅で練習を続けることにした。
数時間かけて試着をくり返していると、店の商品のことはすべて把握できた気になった。 46-7
「ありがとう、美しい人よ!」「アニマを研究した?」僕はその男に聞き返していた。
「哲学さ。おれは教授なんだ。あんたは肩じないかもしれんが、心理学者のユングのことなら、何でも知っている。でも、金にはならないんだよ」
「授業とかやってないんですか?どうして?」
「女だ」男は答えた。「女。持ってたものぜんぶ持っていかれたよ。話せば長くなるがね。おれも甘かったんだろうな。愛がおれを、傷心の路上生活者に変えてしまったんだ」
僕はその男を果然と見つめていた。四〇歳ぐらいだろう。ウソをついているのだろうか、それとも本当の話なのか。
僕が歩きはじめると、男の声が背後から聞こえてきた。「アニマはすでにあんたをとりこにしている。もう逃げられないぜ。自分でも、わかってんだろ!」 126
「私はね、柔らかいけど、しっかりと自分をもった男の人が好き。ソフトであると同時にハードな人。少し頑固なところがあったほうがいいわね」「何、それ?」僕は答えていた。「弱いのに頑固?ソフトなのにハード?」
この会話のせいで、僕は混乱していた。
女性は多重人格者を求めているのか?スイスアーミーナイフのように何でもできて、しかも天使のようにやさしく感受性が豊かな男。実験を始める前から、女性がそうした男性を理想とすることにはうすうす気づいていた。でもこうして改めて聞くと、女性の側もまた、男女間のアンバランスを生み出す原因なのではないかという気がしてきた。男性が女はこんなものだと決めつけるのと同じように、女性も男性に一定の行動を要求してくる。
この会話で得た印象は、僕が女性として体験したものと大部分が一致していた。僕が常に感心していたのは、女性の誠実さだ。それに知性。EQと呼ばれる感情知能のことだ。男としての僕は、ウソ偽りのない誠実な人物だったのだろうか? 186-7
強烈な痛みが僕を襲った。まるで稲妻に撃たれたようだ。暗闇に包まれ、汗が川となって流れ落ちる。全身のふるえが止まらない。痛みが止まらない。やがて心地よさに変わる。痛みがやわらぎ、快感が広がる。ベッドが感じられない。浮いているのだろうか?横に手を伸ばす。マリア?そこにいるはずのマリアに手が届かない。
「マリア!」僕は叫んだ。
僕の両手は縮こまり、小さな塊となった。肉と骨の塊。もう男の手ではない。マリアは遠くに行ってしまった。腕の感覚がない。呼吸もしていない。息をしていないのに、どうやって酸素を吸い込んでいるんだろう?何もできない。何もする必要がない。完全な静止。窓がない。ここは寝室なのだろうか?僕はどこにいるのだろう?
性別のない孤独な存在。それが僕だ。かつて、僕という人間を特徴づけていたすべてがなくなった。人格もない。唯一できるのは感じること。僕自身がひとつの感情になったようだ。
水滴が僕の右に落ちる。次に左。下に向かって落ちていく。あたたかい風が吹きはじめる。真っ暗な宇宙を僕は飛んだ。作惚感に包まれる。根を失い、ただ漂う。マリアはいない。性器もなくなり、肉の塊に変わっていた。僕はスピードを上げながら、どんどん高く上がっていく。衝突する心配はないから安心だ。僕は第三の性だ。僕のなかで何かがふるえた。深い深いところで。何もない場所、安全な場所で。
ふるえが全身に広がる。甘い感覚。やみつきになりそうだ。いつか放電し、爆発するに違いない。
僕は意識を集中した。もっと高く。もっと深く。突然、すべてが消えた。恍惚感も、浮遊感も。体が重くなる。僕は落下した。時間も空間もない。抵抗できない。
僕の人格は完全に失われてしまった。このうえない恐怖と、最高の喜び。電池の切れかけたストップウオッチの秒針が僕だ。右へ左へチクタクチクタク。揺れが止まったとき、僕は幸せだった。
女でも男でもない。身分証明書など、僕の魂はもち合わせていない。
僕は何なのだろう?このままでは生きていけない!少なくとも、この世界では。人格は、僕が生きている証だ。そして性別こそが、人格を形づくる最初の要素だ。赤と青の光を放つ肉の塊として存在しつづけたとしても、世界は僕に目もくれないだろう。無になったという事実に、僕は驚職した。輪郭もなく、意味もない。
マリア、僕は叫ぼうとした、君を失いたくない!
だが、声が出ない。 240-2
4. 逢坂冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』 早川書房
赤軍の女性狙撃兵を主人公とするエンタメ小説、ガチ面白い。
しかもアレクシエーヴィッチ後のソ連≒ロシアの戦争を描くエンタメ作品として、あらゆる意味で正面突破をやっていて、なんならエピローグでアレクシエーヴィッチ御大が引用のうえ物語本体へ貫入する力技まで駆使され、実力ある作家の凄みを思い知るしか。いやもちろん、これが百戦錬磨のベテラン作家ならもっとうまくやるんだろうなという要素要素がこなれてないガチャガチャ感を幾らか看取もしたけれど、それはそれで味にもなっていて、すべてをツルッと巧くまとめられちゃう引っかかりのないエンタメなら翻訳でたくさんあるのだし、というあたりで気になるのはこれ、英語やロシア語に翻訳された時の海外の反応ですね。ラノベ調だし百合要素も濃いしで、たぶん英語版は出るだろうし。すでに出てるかもだけど。
『女狙撃兵マリュートカ』1956 https://x.com/pherim/status/1538716148472365058
『ナチス・バスターズ』2020 https://x.com/pherim/status/1465318409076232204
『アメリカン・スナイパー』https://x.com/pherim/status/559873049286037505
『戦争と女の顔』https://x.com/pherim/status/1547563782066487296
スベトラーナ・アレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り』https://x.com/pherim/status/1177803385044488192
脳内映像的には、何よりまず『女狙撃兵マリュートカ』。ほかのスナイパー物や独ソ戦物も多く想起されたけど、なかでもイーストウッド『アメリカン・スナイパー』は、ほぼまんまのパクリ否オマージュ場面もありましたね。速度感あって良かった。
てか、直近回の芥川賞&直木賞どっちも受賞作なしが話題になっていて、逢坂冬馬『ブレクショットの軌跡』も候補作だったけど、いやまぁ、同じく候補作だった『同志少女よ、敵を撃て』を落とした賞なら『ブレクショットの軌跡』が落ちるのはやむなし感しだなぁ。そこで疑問なのはむしろ、『同志少女よ、敵を撃て』を落とすエンタメ文学賞ってあり得るのかってことのほうだよね。そんな歴代の受賞作、面白かったっけ。面白いだけじゃ駄目なのか。選評とか読めばそれはそれで納得するのかもだけど、とりまそれくらいむっちゃ面白かったし、設えも諸々良かったし、これぶっちゃけ日本人が主人公だったり日本が舞台だったらぜんぜん獲ってたやつな気さえしてまう。
5. 吉本忍 編 『更紗今昔物語 ジャワから世界へ』 国立民族学博物館
東京ステーションギャラリーでの《カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語》展記事作成にかこつけ、十年来の積読本を1冊片付ける(大海の一滴をすくう)試み。
《インド更紗 世界をめぐる物語》展ツイ https://x.com/pherim/status/1980582536771432459
『インド更紗 世界をめぐる物語』(よみめも105)https://tokinoma.pne.jp/diary/5674
拙稿「伝播する更紗の宇宙」https://www.kirishin.com/2025/10/27/80217/
更紗自体は古代インド由来ながら、中世ジャワに根づいたあと、近世近代の交易網進展のなかで「ジャワの伝統」をも塗り替えるプリント更紗の生産が、更紗世界伝播の主軸を担う展開は読むまで予想しておらず意外性ポイント高い。
上記記事で言及した「マリア更紗」意匠も、プリント技術でより鮮明なものが当然現れ、多様化している。
↓で話した、アフリカ内陸展開などは紛れもなくプリント技術ゆえであり、日本の名もなき量販店や地方のスーパー2階などで多売されるノーブランドのプリント柄なども、図像学的に遡るならジャワ更紗の伝播に紐づけられる要素は必ずあるわけで、誰も意識してない側面だからこそ生活への侵入具合が面白い。
ツイキャス「更紗のインド洋交易とモンスーン」https://x.com/pherim/status/1292423151985422337
ウイルス的というと言葉が悪いのかな、でも絵柄の生き延びみたいな観点からは、進化生物学的現象学的な見かたもできるよなとおもう。そこに紐づく物語の端緒とか。
6. 小野不由美 『魔性の子』 新潮文庫
アニメ『十二国記』へ不意にハマったのは震災から1,2年のうちだったように思う。震災のあと、であったことは、今おもえば感じかたというかハマり具合へ決定的な影響を与えていたはずだけれど、まぁ楽しかったよな。
で。その序章という『魔性の子』、驚いた。現代の学園ホラー物として上出来だし、時かけとか学園超能力物なんかも想起させる懐かしいモード満載で、とてもじゃないけど『十二国記』味から遠い。それでちょっとネットに落ちてる本編動画を見返したら、ふつうにサブリミナルチックに学園物シーンが挿入されていたりして、つまり十ン年前はそこ頑スルーして観てたんだなぁと。ん、なんだ今の、変わってんなぁ、くらいに思うことがあった記憶はあるようなないような。
十ン年前っていうのも驚きますわね。
7. 大津卓也 砂糖ふくろう 『一枚の絵でストーリーを伝える方法 ビジュアルストーリーテリングの基礎から応用まで』 翔泳社
イラスト制作における各要素の抽象化に秀でた著者だな、という印象。これができてイラストも巧いからこの本が描ける、という。
・ラインオブアクション
・大きなストローク
・アイデアのカテゴリー整理
大まかに、上記3点が秀逸。ここを意識して描ければ本書の肝は8割がた完遂されるし、これはけっこうイラスト制作以外、なんなら描画以外にも応用可能な方法論で、要するに「のびのびやりきる」作法の堅守というに尽きる。こまけぇことにひとはすぐ囚われる。でもそれほんとうは、大局的には余計なんだよね、みたいなことをしてしまい考えとらわれてしまうのがまぁ個人というものかもしれませんけど。
あとは実践をね、この日常時間へどう織り交ぜていけるのか、っていう。これは本に書いてないこととして。
8. 島本理生 『ノスタルジア』 audible
書けなくなったアラフォー作家女性と、殺人犯で拘置所で自死した母を持つ宗教二世青年が同居することになって始まる関係性の緩やかな深まりと揺らぎ。読み手の能登麻美子が本当にズルいほど惹き込まれる読み口で、これは当代の声優さすがというしかない。audible先行作でこの試みは地味に尖ってるよね。
9. 『第38回東京国際映画祭公式プログラム』 公益財団法人ユニジャパン
3年連続の176ページ構成。ちな2022年170ページ、2021年160ページ。というわけでコロナ禍を経て形式として安定した感あるも、デザイン的には劣化し、背表紙の変更込みで事実上放任のデザイナーマターから“上”の意向が入ったと推測。なんなら予算削減で外注デザイナー外れたかもな。ただ値段は2000円から2300円に。まぁこの1年の物価上昇に馴れた目には自然やね。
経費で落ちる可能性もあり購入したが、公式Web作品ページも充実してきた、ってかテキスト水準でも同内容に揃える方針さえ感覚され、来年からは買わなくなるかも。って去年も書いたけど。仮に同じ内容になっても紙で開ける利点があるのは他の本やマンガと一緒やね。
「ふぃるめも382 東京国際映画祭2025《1》コンペティション部門/アジアの未来部門/オープニング作品」:
https://tokinoma.pne.jp/diary/5684
※《4》まで続きます。
10. 成毛眞 平野啓一郎ほか 『賢人の読書術』 幻冬舎
体裁と中身のギャップが過去イチのギャグ本。賢人というに値する文言は皆無ながら、売らんかな幻冬舎の欲望はよく表現されている。図書館のおすすめ棚にあったのか、著者名5人の並びからまずうまくて、成毛眞と平野啓一郎で挟むと、どこの馬の骨かもわからない他3名がどこかでみた感醸すんだよね。かつ添えられた英題が、“Essential Tips for Surviving Modern Bussiness What you should think 以下略”と欲望の軽薄さがよく滲む。
とはいえ各氏が7,8冊ずつ挙げてるブックガイド中に1冊ずつ興味を覚えたものがあり、メモしておく。よみめもですので。
斎藤正明 『マグロ船仕事術』
ジェラルド・ダレル 『積みすぎた箱舟』
山中伸弥 川口淳一郎 『夢を実現する発想法』
長沼毅 『長沼さん、エイリアンって地球にもいるんですか?』
「1冊ずつ」と書いて著者5人なのに4冊しかないのは、平野啓一郎ブックガイドはないからで、笑える。名前を貸すのはいいが、この座組で平野名のブックガイドはさすがに出せないって判断が透けてまう。もちろん憶見なのですが、本を読むのに良い通勤電車内ポジに1章使うなど、それくらいは言わせるギャグ感。
▽コミック・絵本
α. 都留泰作 『竜女戦記』 1,2 平凡社
日本戦国~江戸時代風俗の異世界物で、眠る龍=大蛇が統べる群島に割拠する諸大名らの栄枯盛衰を生き抜く人々と異能の者たち。
薩摩隼人みたいのが異なる民族風に描かれるあたり、自身がアフリカでのフィールドワーク経験もある文化人類学者出身の漫画家ならではな裾野の広がりが感覚され、大変に好ましう。
黒田官兵衛モデルの殿様がジジイになってから事実上の改易に遭い、裸で野山を放浪するくだりからの異能継承って流れは先が読めず面白い。
旦那衆・姐御衆よりご支援の二冊、感謝。
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β. 武富健治 『心の問題』 太田出版
短編集。前半に代表作『鈴木先生』のヒット後短編、後半に再デビュー前の初期短編が並ぶため、上達の目覚ましさ看取はかどる。何がどう巧くなってるかが認識される以前、ストーリーを把握する以前に、とっつきやすく、画面全体に安定感、統一質感が感覚される。後半はホラー作が並び本来なら意識の底へ届くような恐怖喚起こそ核になるべきながら、ネクラ少年の恋心描く前半作のほうがよほど深いのも上達ゆえながら、この明確なコントラストは様々な角度から参考になりそうな。
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γ. たかみち 『百万畳ラビリンス』 上 少年画報社
リアルに現出したゲーム内バグ空間へ迷い込んだゲームオタク女子2名の彷徨。足元が基本畳で構成されてるエッシャー建築の志向好き。大昔に畳レール上を走る市電モノレールに各家の押入れがつながってる世界を書いたらイタリア人留学生にやたら喜ばれたのを思い出す。畳ギミック謎の誘引力あるよねっていう。
ダレ気味な後半で回想&全裸カット入れて突然死匂わせてっていう工夫の総体がうっすら飽きを催すも、1アイデアでこの牽引力はふつうに凄い。
(▼以下はネカフェ/レンタル一気読みから)
δ. ヤマシタトモコ 『違国日記』 4-11 祥伝社〈完結〉
4巻。え、このシーンを映画版は外したのか。っていう珠玉の“ハリネズミのジレンマ”シーン、これは悶える。あと『フライド・グリーン・トマト』を観ようとぞおもた。
5巻、朝のようやく朝がきた感。心に残る名シーンというしか。
6巻、家族の死をめぐり沸点を超える序盤のアツさが懐かしいなと感じだしたところで、両親の誕生日イベントが発生するの、巧いなと。しかも脇キャラ同士の百合展開が並走しだすとか。
7巻、軽音部での発表イベント熱唱、10年後に誰かの胸に残っていればという想いのアツさ。各話最終ページの余韻のもたせかたがいい。カーテンクローズアップとか。I witness you.を言い残し階上の窓から去る友の背中みて、「なんかずるいなんか」とか。末尾にチョン・セラン『フィフティ・ピープル』言及あり。
8巻
「……でもラベルだけあって中身のわからない箱 鍵を探さずに我慢できるかな あたしはたぶんムリ」。
9巻
「……あなたの」
「……ん~?」
「……あなたの明るさとか、お喋り
ひとからの好意をきちんと受け取れて受け取らなくていいことは受け流せるところ」
「……ん~~?」
「……ほかにも挙げていけばいろいろあるけれど」
「……ん~…?」
「……そういうものがわたしにとってどれほど欲しかったものか 想像がつく?」
10巻、槙生の高校生時代描写がいい。朝の陰キャ文芸少女版みたいな。ショートで似せてるのも意図的よね。
11巻。てか終盤数巻の深まりかたが半端ないし、他で観たことのない角度&深度へ掘り進む感じがゾクゾクするほどに凄味ある。
あの日、あの人は群をはぐれた狼のような目で
わたしの天涯孤独の運命を退けた。
ε. 松本直也 『怪獣8号』 14-6 集英社〈完結〉
9号のつよつよ感失調、ごたく優勢になってきた。笑
15巻まさかの戦国転生。主要キャラがまるごと戦国時代にも生きてる構図、大胆にやってのけるもんだなぁ。
16巻で、これだけ爆発力のあるマンガがきちんと終われる、良い時代感がまず先立つ。
にしても最終巻の昇華が凄い。ここは本当、連載時期の重なった呪術廻戦より圧倒的に優ってる。とりわけラスボスの《核》を探すくだりに、数世紀の歴史とサブキャラ四宮父娘の家族史が重なる沸騰感は傑作というしかない。
とはいえ、あれだけ饒舌に語ってたラスボス9号が明暦怪獣となるあたりから、すっかり単なる客体物と化したのが玉に瑕の観もなくはない。疾走感を犠牲にするあのダベりは、続くとたしかに収束の邪魔というか鬱陶しくなるだろうから、じゃぁどうしたら良かったのかと考えるにこれしかなかった気もしてくるけど。
カフカって主人公の名前がさ、最終巻にきて《核》へたどり着けない『城』感醸してくるの、いいわ。超いい。
ζ. 荒木飛呂彦 『岸辺露伴は動かない』 1-3 集英社
画で表現したいことや感情を描き切る膂力がパなすぎて圧倒される、言わずもがなですけれど。
NHKドラマ→映画版が思いのほか原作通りだったのはほんのり退屈、もち原作に罪はないのだけど。
ドラマ&映画版『岸辺露伴は動かない』連ツイ
https://x.com/pherim/status/1754135227407184158
2-3巻、ドラマ化されてないエピソードがなかなか良い。
今回は以上です。こんな面白い本が、そこに関心あるならこの本どうかね、などのお薦めありましたらご教示下さると嬉しいです。よろしくです~
m(_ _)m
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